[東京会場]キム・ジンマン『Noodle Fish』トーク録
[東京会場]スペシャルトーク<麺で作る世界>トーク録
2013年4月20日(土)アップリンク・ファクトリーにて

司会:水江未来
ゲスト:キム・ジンマン『Noodle Fish』Bプロで上映
通訳:田中恵美

「Noodle Fish/でこぼこ魚/오목어」2012/9:46/キム・ジンマン
料理用のそうめんを積み上げ、場面ごとに麺を押し出して模様を描いたピンスクリーン・アニメーション。「大人になるには、水の外へ行かなきゃダメなの?」小さな水たまりに住む主人公へ疑問を抱かせ、消えてしまったおたまじゃくしたち。その時から、水の外へ向けた彼の旅が始まる。
Director's note
私は誰だ?私は魚なのか、麺なのか?私は麺を動かす人間なのか?
水江未来(以下水江):キム・ジンマン監督から一言挨拶を。
キム・ジンマン(以下キム):こんにちは、『Noodle Fish』を作りましたキム・ジンマンと申します。今回、日本の皆様にこのようにお見せすることができ、私も日本に来ることができて、とても光栄に思っております。『Noodle Fish』について、詳しいお話をいろいろさせていただきたいと思います。皆さんが楽しくみてくださったのか気になります。ちょっと恥ずかしい気持ちもあります。
水江:僕とキム・ジンマン監督は、毎年9月に韓国で行われる、コンペ形式のインディ・アニフェストというアニメーションの映画祭で、2011年に一緒に審査員をしました。その時に監督のスタジオを訪問し、その時制作中だった『Noodle Fish』の、手作りのピンスクリーンの装置を実際に見させていただきました。今日は、その作品をどういう風に作られていったのかを色々と聞いていこうと思います。
水江:素麺を使って作られていますが、まず最初にどうしてこういう方法で作ろうとしたのか、教えてください。
キム:乾麺を使ってアニメーションを作り始めたのは10年前からです。10年前に乾麺を使って作品を作ったあと、その間何作かオブジェクトアニメーションを制作していたんですが、10年ぶりにまた今回、乾麺を使ったものを作ることに成りました。10年前に作ったときは、アニメーション自体を初めて作った時だったので、やり方もわからずに作っていたので、10年経ってアニメーションの方法がある程度分かった時点で、もう1度きちんとした形で乾麺を使った作品を作ってみたいと思ったのがきっかけです。10年前にアニメーションを作ろうとした時はアニメーションに関して全く分からず、シナリオも全くない状態でしたが、とにかくアニメーションを作りたいという気持ちで、まず図書館に駆け込みました。僕は大学で彫塑を専攻していたのですが、普通彫塑科の人たちはクレイアニメーションを作ろうとするのですが、僕はクレイではない他の方法でやってみたいと思って調べていたら、ピンスクリーンという技法があるということを知りました。クレイでアニメーションを作れば面白く作れるだろうとは思ったんですが、他の材料でやれば、また違った物ができあがるのではないか、と。ピンスクリーンの技法の説明を読んでいた時、子どもの頃に母親が乾麺を買ってきた時、そろった乾麺の縁を押して遊んでいたのを思い出しました。それで即行スーパーに行って乾麺を何束か買ってきて、縁を押してみると、キャラクターができた!と。前から押すと凹んだキャラクターが現れ、反対側を見ると飛び出た部分が凸の模様のキャラクターが見えました。(10年前の作品は)『でことぼこの話』という作品だったんですが、凹面の世界から生まれた凸さんの物語というのを作りました。乾麺についての作品を初めて作ったので、乾麺を押してできる特性を生かしたシナリオを作ろうと思い、陰と陽という哲学的な話を素材に物語りを作ってみました。

『でことぼこの話/볼록이 이야기』(2003 / 11'18" / noodle)
『Noodle Fish』も同様に乾麺の特性を前面に出したくて、ただ乾麺を重ねてでこぼこさせるだけでなくて、乾麺が波動のように水の上をざーっと飛び出してくるシーンも表現したくて、その部分も最初の構想からありました。最初の『でことぼこの話』の時に、作品に使った乾麺を茹でて食べてしまったのか?という質問があったので、『Noodle Fish』は最後に自分で乾麺を茹でて食べるシーンを入れました。
水江:乾麺を押してみて、これは面白そうだと思ったという話ですが、日本で売っている乾麺の束って直径2cmくらいだと思うんですが、それを押して遊ぶという、そこにキャラクターができたというのが、どういうことなのか不思議なんですが…。韓国の乾麺はどういう形で売られているんですか?
キム:日本では一人分の束に分かれて売っているんですね?韓国では10人分1束で売っています。10人分、20人分、30人分というのもありますが、一人分の束はあまりないです。
水江:けっこう1束が太いんですね(笑)
キム:そうです(笑)
水江:韓国の子どもは家で乾麺を押して遊ぶものなんですかね?
キム:普通の子どもなら、母親が乾麺を買って置いておくと押してみたくなりますね。
水江:他の国の人だと乾麺をピンスクリーンみたいに押してアニメーションを作ろうという発想が出ないかと思うんですが、韓国のそういう文化から出てきたものなんですね。
水江:10年前に作った乾麺の作品は小さくてA4くらいのサイズの装置だったんですよね。今回はかなり大掛かりになってますよね。これは、サイズはどれくらいなんでしょうか?

キム:幅が2mくらいで、高さは55cmで、乾麺の量は1400人前です。
水江:これ、1400人分? 1日ひとりで3食たべても1年で食べきれない量がここにあるわけだから、すごい壮大な麺の数になりますね。なんで、こんなに大きな装置を作ったんですか?
キム:前回はA4サイズで2万ウォンぐらい、日本円で2000円位の乾麺で作ったのですが、今回は主人公がいろいろと旅をするような感じを出したかったので、下にタイヤがついていてこの装置自体が左右に動くしくみになっており、横の移動をできるだけダイナミックに表現したいと思いました。魚が広いところを泳ぎまわっているような雰囲気を出したくて。
水江:装置がスライドするんですよね。カメラは固定して。カメラ自体も縦に動くんですよね。
キム:カメラは上下に動いて、装置は左右に動くようにしてます。主人公が水の中から外にジャンプする時は装置を1cm動かして、カメラを1cm上に動かして、と少しずつ、それぞれを動かして撮影していきました。
水江:1400人分の乾麺が敷き詰めてありますが、撮影に入る前に敷き詰めるという作業だけでも相当時間がかかると思うのですが、どんな苦労がありましたか?
キム:韓国には乾麺を作るメーカーが十数か所あるのですが、メーカーによって長さや太さが違っていて、同じメーカーでも少しずつ違っていて、その中でも一番揃っているメーカーのものを使いました。それでも封を開けてみると微妙に違っていて、まず乾麺の長さを切りそろえる所から始まり、敷き詰めると短いのがあって、そういうのを除去したり。正面から見ると長さが足りないと黒い点に見えちゃうので、そういうところに乾麺を補足して、揃えていきました。本当はもうちょっと高さを高くしたかったのですが、たくさん積みすぎると重力が下にかかってきてしまって、下の方を押すのが大変になってきて、うまく押せなくて、55cmという高さがぎりぎりの高さでした。
水江:上の方と下の方では、押す力はどれくらい違ってくるんですか?
キム:かなり違いますね。下の方は重力がかかっているので力が必要で、押すと指が痛くて、押した後も回りを整える作業をするのですが折れやすくて、それを直すのが大変で…。逆に上の方は、下の方と同じ力で押すとものすごく動いてしまうので、上下の力加減を調整するのが非常に大変でした。

水江:ピンスクリーンは針がびっしり敷き詰められていますが、乾麺をまんべんなく敷き詰めるというのも大変なんですね。
キム:長さを切りそろえて、黒い点に見えてしまうものを除去する作業だけで1ヶ月くらいかかっています。乾麺がまっすぐに積んであればいいのですが、斜めになっていることもあり、まっすぐ押し出そうとしたら、変なところから出てきたりして、そういうのを気をつけなければならず大変でした。
水江:水の中の世界だけではなくて、水の外の世界を乾麺で立体的に表現しているところ、しぶきのように動いていくところはどうやって作ったのでしょうか?
キム:水の外に出てくるシーンで、水のしぶきと捉える人もいれば、水草と捉える人もいるのですが、僕は水草として表現しました。知らない世界を初めて見るとき、最初は目をつぶっていて、だんだん目が開いて、徐々に世界を知っていくものだと思うのですが、この場面も水の外に出た水草たちが、徐々に自分達が未知の世界に出たというのが分かって広がっていくのですが、それがまた水の中に沈み、無念にも消えてしまうという、そういうシーンを表現しようと思いました。2次元の世界から一気に3次元の世界に展開するという、一段階上の次元に行くというのをダイナミックに表現したかったので、乾麺を折り取って接着剤でつけて、ちょっとずつ付けては撮影して、乾麺を取って、を繰り返して撮影していきました。乾麺専用の接着剤があるわけではなく、家でいろいろ調合してボンドを自作し、乾麺が湿るとしなってしまうので、即効性の強い接着剤を作りました。
水江:時間との勝負なんですね。時間が経つと全部倒れてきちゃうんですか?
キム:倒れはしないです。すぐ水の中に入るでの、すぐ取り外せるように、完全にくっついてはダメなので、一時的にくっつくようなもので。今は全部取り外しちゃったので、跡形もありませんが(笑)

水江:最後のシーンで画面に向かって主人公が飛び出し、だんだん乾麺の麺に分解されていくのはどう撮影したのですか?
キム:当初は乾麺の世界の中から主人公が飛び出し、徐々にバラバラになっていくのを撮りたいと思っていました。1年間他のシーンを撮りながら、このシーンをどうやって撮ろうか悩んでいました。撮影している間、湿度差によって乾麺がしなることがわかり、特に冬になると上の方の乾麺が撓んだりゆがんだりすることがわかりました。最初はこのシーンは難しいからCGを使って撮るしかないなと諦めかけていたのですが、冬に私を悩ませた乾燥が麺をしならせるというのがわかり、麺の束を立たせておいたら、勝手に外側にしなっていくので、これは使えると思いました。麺の束を立たせて、湿度をマックスに上げておいて、エアコンを使って徐々に乾燥させると、まるで花のように広がっていきました。大変難しいシーンになるはずでしたが、このシーンは手を触れずにエアコンと湿度計だけで撮影しました。それを後でブルースクリーンで合成しました。
水江:最後、麺の意志で動いていったことになりますね(笑)。

<質疑応答>
お客様1:アニメートがとても上手だったのに感服いたしましたが、どうやって身につけたのですか?
キム:彫塑を専攻していて、学生にも彫塑を教えていますが、そこでも言い聞かせていることですが、彫塑で一番重要なのは観察をたくさんすることで、アニメートも同じことが言えると思います。そこで撮影中1年間実際に家でフグを飼い、毎日ずっと魚の動きを観察し把握しました。田んぼにいって、カエルやおたまじゃくしを捕まえてその動きも観察しました。
水江:実際の動物を観察し、それをアニメーションの動きに反映させたということですね。
お客様2:語りのリズムがとっても良かったのですが、動きとぴったり合っていて。何か工夫があったのでしょうか?
キム:10年間アニメーションを制作してきて、このキャラクターの運命と作家としての自分の運命が似たようなものだ、と思い、決まった運命のように、ずっとアニメーションを作り続けていく自分の姿と主人公と相違ないものだと。最後に飛び出し麺になって食べられるというシーンが自分と主人公が同化し一つになるという意味もあり、全ての登場キャラクターは僕が全て声優をしました。ミミズが踊ったり、他のキャラクターの動きも、自分で振り付けをして、全部のキャラクターが自分だと思って演技をし、声をつけていきました。
補足:飼っていたフグは仁川の海に放したそうです。撮影した麺は撮影後、3,4回食べたけれど、まだ手付かずで残っているそうです(笑)。
2013年4月20日(土)アップリンク・ファクトリーにて

司会:水江未来
ゲスト:キム・ジンマン『Noodle Fish』Bプロで上映
通訳:田中恵美

「Noodle Fish/でこぼこ魚/오목어」2012/9:46/キム・ジンマン
料理用のそうめんを積み上げ、場面ごとに麺を押し出して模様を描いたピンスクリーン・アニメーション。「大人になるには、水の外へ行かなきゃダメなの?」小さな水たまりに住む主人公へ疑問を抱かせ、消えてしまったおたまじゃくしたち。その時から、水の外へ向けた彼の旅が始まる。
Director's note
私は誰だ?私は魚なのか、麺なのか?私は麺を動かす人間なのか?
水江未来(以下水江):キム・ジンマン監督から一言挨拶を。
キム・ジンマン(以下キム):こんにちは、『Noodle Fish』を作りましたキム・ジンマンと申します。今回、日本の皆様にこのようにお見せすることができ、私も日本に来ることができて、とても光栄に思っております。『Noodle Fish』について、詳しいお話をいろいろさせていただきたいと思います。皆さんが楽しくみてくださったのか気になります。ちょっと恥ずかしい気持ちもあります。
水江:僕とキム・ジンマン監督は、毎年9月に韓国で行われる、コンペ形式のインディ・アニフェストというアニメーションの映画祭で、2011年に一緒に審査員をしました。その時に監督のスタジオを訪問し、その時制作中だった『Noodle Fish』の、手作りのピンスクリーンの装置を実際に見させていただきました。今日は、その作品をどういう風に作られていったのかを色々と聞いていこうと思います。
水江:素麺を使って作られていますが、まず最初にどうしてこういう方法で作ろうとしたのか、教えてください。
キム:乾麺を使ってアニメーションを作り始めたのは10年前からです。10年前に乾麺を使って作品を作ったあと、その間何作かオブジェクトアニメーションを制作していたんですが、10年ぶりにまた今回、乾麺を使ったものを作ることに成りました。10年前に作ったときは、アニメーション自体を初めて作った時だったので、やり方もわからずに作っていたので、10年経ってアニメーションの方法がある程度分かった時点で、もう1度きちんとした形で乾麺を使った作品を作ってみたいと思ったのがきっかけです。10年前にアニメーションを作ろうとした時はアニメーションに関して全く分からず、シナリオも全くない状態でしたが、とにかくアニメーションを作りたいという気持ちで、まず図書館に駆け込みました。僕は大学で彫塑を専攻していたのですが、普通彫塑科の人たちはクレイアニメーションを作ろうとするのですが、僕はクレイではない他の方法でやってみたいと思って調べていたら、ピンスクリーンという技法があるということを知りました。クレイでアニメーションを作れば面白く作れるだろうとは思ったんですが、他の材料でやれば、また違った物ができあがるのではないか、と。ピンスクリーンの技法の説明を読んでいた時、子どもの頃に母親が乾麺を買ってきた時、そろった乾麺の縁を押して遊んでいたのを思い出しました。それで即行スーパーに行って乾麺を何束か買ってきて、縁を押してみると、キャラクターができた!と。前から押すと凹んだキャラクターが現れ、反対側を見ると飛び出た部分が凸の模様のキャラクターが見えました。(10年前の作品は)『でことぼこの話』という作品だったんですが、凹面の世界から生まれた凸さんの物語というのを作りました。乾麺についての作品を初めて作ったので、乾麺を押してできる特性を生かしたシナリオを作ろうと思い、陰と陽という哲学的な話を素材に物語りを作ってみました。

『でことぼこの話/볼록이 이야기』(2003 / 11'18" / noodle)
『Noodle Fish』も同様に乾麺の特性を前面に出したくて、ただ乾麺を重ねてでこぼこさせるだけでなくて、乾麺が波動のように水の上をざーっと飛び出してくるシーンも表現したくて、その部分も最初の構想からありました。最初の『でことぼこの話』の時に、作品に使った乾麺を茹でて食べてしまったのか?という質問があったので、『Noodle Fish』は最後に自分で乾麺を茹でて食べるシーンを入れました。
水江:乾麺を押してみて、これは面白そうだと思ったという話ですが、日本で売っている乾麺の束って直径2cmくらいだと思うんですが、それを押して遊ぶという、そこにキャラクターができたというのが、どういうことなのか不思議なんですが…。韓国の乾麺はどういう形で売られているんですか?
キム:日本では一人分の束に分かれて売っているんですね?韓国では10人分1束で売っています。10人分、20人分、30人分というのもありますが、一人分の束はあまりないです。
水江:けっこう1束が太いんですね(笑)
キム:そうです(笑)
水江:韓国の子どもは家で乾麺を押して遊ぶものなんですかね?
キム:普通の子どもなら、母親が乾麺を買って置いておくと押してみたくなりますね。
水江:他の国の人だと乾麺をピンスクリーンみたいに押してアニメーションを作ろうという発想が出ないかと思うんですが、韓国のそういう文化から出てきたものなんですね。
水江:10年前に作った乾麺の作品は小さくてA4くらいのサイズの装置だったんですよね。今回はかなり大掛かりになってますよね。これは、サイズはどれくらいなんでしょうか?

キム:幅が2mくらいで、高さは55cmで、乾麺の量は1400人前です。
水江:これ、1400人分? 1日ひとりで3食たべても1年で食べきれない量がここにあるわけだから、すごい壮大な麺の数になりますね。なんで、こんなに大きな装置を作ったんですか?
キム:前回はA4サイズで2万ウォンぐらい、日本円で2000円位の乾麺で作ったのですが、今回は主人公がいろいろと旅をするような感じを出したかったので、下にタイヤがついていてこの装置自体が左右に動くしくみになっており、横の移動をできるだけダイナミックに表現したいと思いました。魚が広いところを泳ぎまわっているような雰囲気を出したくて。
水江:装置がスライドするんですよね。カメラは固定して。カメラ自体も縦に動くんですよね。
キム:カメラは上下に動いて、装置は左右に動くようにしてます。主人公が水の中から外にジャンプする時は装置を1cm動かして、カメラを1cm上に動かして、と少しずつ、それぞれを動かして撮影していきました。
水江:1400人分の乾麺が敷き詰めてありますが、撮影に入る前に敷き詰めるという作業だけでも相当時間がかかると思うのですが、どんな苦労がありましたか?
キム:韓国には乾麺を作るメーカーが十数か所あるのですが、メーカーによって長さや太さが違っていて、同じメーカーでも少しずつ違っていて、その中でも一番揃っているメーカーのものを使いました。それでも封を開けてみると微妙に違っていて、まず乾麺の長さを切りそろえる所から始まり、敷き詰めると短いのがあって、そういうのを除去したり。正面から見ると長さが足りないと黒い点に見えちゃうので、そういうところに乾麺を補足して、揃えていきました。本当はもうちょっと高さを高くしたかったのですが、たくさん積みすぎると重力が下にかかってきてしまって、下の方を押すのが大変になってきて、うまく押せなくて、55cmという高さがぎりぎりの高さでした。
水江:上の方と下の方では、押す力はどれくらい違ってくるんですか?
キム:かなり違いますね。下の方は重力がかかっているので力が必要で、押すと指が痛くて、押した後も回りを整える作業をするのですが折れやすくて、それを直すのが大変で…。逆に上の方は、下の方と同じ力で押すとものすごく動いてしまうので、上下の力加減を調整するのが非常に大変でした。

水江:ピンスクリーンは針がびっしり敷き詰められていますが、乾麺をまんべんなく敷き詰めるというのも大変なんですね。
キム:長さを切りそろえて、黒い点に見えてしまうものを除去する作業だけで1ヶ月くらいかかっています。乾麺がまっすぐに積んであればいいのですが、斜めになっていることもあり、まっすぐ押し出そうとしたら、変なところから出てきたりして、そういうのを気をつけなければならず大変でした。
水江:水の中の世界だけではなくて、水の外の世界を乾麺で立体的に表現しているところ、しぶきのように動いていくところはどうやって作ったのでしょうか?
キム:水の外に出てくるシーンで、水のしぶきと捉える人もいれば、水草と捉える人もいるのですが、僕は水草として表現しました。知らない世界を初めて見るとき、最初は目をつぶっていて、だんだん目が開いて、徐々に世界を知っていくものだと思うのですが、この場面も水の外に出た水草たちが、徐々に自分達が未知の世界に出たというのが分かって広がっていくのですが、それがまた水の中に沈み、無念にも消えてしまうという、そういうシーンを表現しようと思いました。2次元の世界から一気に3次元の世界に展開するという、一段階上の次元に行くというのをダイナミックに表現したかったので、乾麺を折り取って接着剤でつけて、ちょっとずつ付けては撮影して、乾麺を取って、を繰り返して撮影していきました。乾麺専用の接着剤があるわけではなく、家でいろいろ調合してボンドを自作し、乾麺が湿るとしなってしまうので、即効性の強い接着剤を作りました。
水江:時間との勝負なんですね。時間が経つと全部倒れてきちゃうんですか?
キム:倒れはしないです。すぐ水の中に入るでの、すぐ取り外せるように、完全にくっついてはダメなので、一時的にくっつくようなもので。今は全部取り外しちゃったので、跡形もありませんが(笑)

水江:最後のシーンで画面に向かって主人公が飛び出し、だんだん乾麺の麺に分解されていくのはどう撮影したのですか?
キム:当初は乾麺の世界の中から主人公が飛び出し、徐々にバラバラになっていくのを撮りたいと思っていました。1年間他のシーンを撮りながら、このシーンをどうやって撮ろうか悩んでいました。撮影している間、湿度差によって乾麺がしなることがわかり、特に冬になると上の方の乾麺が撓んだりゆがんだりすることがわかりました。最初はこのシーンは難しいからCGを使って撮るしかないなと諦めかけていたのですが、冬に私を悩ませた乾燥が麺をしならせるというのがわかり、麺の束を立たせておいたら、勝手に外側にしなっていくので、これは使えると思いました。麺の束を立たせて、湿度をマックスに上げておいて、エアコンを使って徐々に乾燥させると、まるで花のように広がっていきました。大変難しいシーンになるはずでしたが、このシーンは手を触れずにエアコンと湿度計だけで撮影しました。それを後でブルースクリーンで合成しました。
水江:最後、麺の意志で動いていったことになりますね(笑)。

<質疑応答>
お客様1:アニメートがとても上手だったのに感服いたしましたが、どうやって身につけたのですか?
キム:彫塑を専攻していて、学生にも彫塑を教えていますが、そこでも言い聞かせていることですが、彫塑で一番重要なのは観察をたくさんすることで、アニメートも同じことが言えると思います。そこで撮影中1年間実際に家でフグを飼い、毎日ずっと魚の動きを観察し把握しました。田んぼにいって、カエルやおたまじゃくしを捕まえてその動きも観察しました。
水江:実際の動物を観察し、それをアニメーションの動きに反映させたということですね。
お客様2:語りのリズムがとっても良かったのですが、動きとぴったり合っていて。何か工夫があったのでしょうか?
キム:10年間アニメーションを制作してきて、このキャラクターの運命と作家としての自分の運命が似たようなものだ、と思い、決まった運命のように、ずっとアニメーションを作り続けていく自分の姿と主人公と相違ないものだと。最後に飛び出し麺になって食べられるというシーンが自分と主人公が同化し一つになるという意味もあり、全ての登場キャラクターは僕が全て声優をしました。ミミズが踊ったり、他のキャラクターの動きも、自分で振り付けをして、全部のキャラクターが自分だと思って演技をし、声をつけていきました。
補足:飼っていたフグは仁川の海に放したそうです。撮影した麺は撮影後、3,4回食べたけれど、まだ手付かずで残っているそうです(笑)。
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