花コリ2019名古屋会場トーク録『フェルーザの夢とともに』キム・イェヨン、キム・ヨングン監督
第10回記念 特別上映
『フェルーザの夢とともに』キム・イェヨン、キム・ヨングン監督
ドキュメント作『フェルーザの夢とともに』で、早婚の風習に縛られたエチオピア人少女フェルーザに、優しく寄り添ったキム・イェヨン、キム・ヨングン監督。映画の中で起こった奇跡は、作品完成後も続きます。本作の制作秘話、そして、TVだけで5ヶ国語を身につけたという驚異の少女フェルーザのその後について伺いました。
■日時: 2019年7月6日(土)13:45
第10回記念 特別上映『フェルーザの夢とともに』の上映終了後
■会場: 愛知芸術文化センター 12階 アートスペースEF
■ゲスト: キム・イェヨン、キム・ヨングン(『フェルーザの夢とともに』監督)
■通訳:田中恵美(韓→日)、竹本有希(日→韓、愛知淑徳大学交流文化学部2年)
■司会:西村嘉夫(シネマコリア代表)
キム・イェヨン(以下イェヨン):楽しくご覧いただけましたでしょうか?
この物語は、私たちが結婚し、2013年夏から新婚旅行で1年6ヵ月に渡る世界一周の旅行に出たのですが、その時に出会ったエチオピアの少女との体験をもとに話を作りました。
これから、皆さんにこの作品についてお話ししたいと思いますが、この作品の中のことだけではなく、この後フェルーザがどうなったのかについても、お話ししたいと思います。
西村:今回、監督に写真と動画をご準備いただきました。それをご覧いただきながら、新婚旅行の始まりからエチオピアでの出来事、そして、この作品が完成した後、何が起こったのか、お話しいただきます。
キム・ヨングン(以下ヨングン):私たちは長い旅行を計画していたので、結婚指輪の費用を節約して、結婚指輪の代わりに薬指にタトゥーをいれました。
一年ほど旅を続けているうちに、エチオピアに到着しました。特に火山を観に行きたかったのですが、南米で出会った日本人の観光客の薦めで、この写真の火山へ行くことにしました。砂漠を移動している時、砂漠の真ん中にゲストハウスがあり、そこでフェルーザに出会いました。
そこは韓国人には全然知られていないゲストハウスだったので、韓国語を聞けるとは想像もしていませんでした。彼女が最初に韓国語で挨拶してくれたので、とても驚きました。
ラマダンが終わり、親戚が集まって一緒にご飯を食べる様子を写した写真や、フェルーザの就職を手伝うため首都へ向かう時に、彼女の親戚の家に寄って撮った写真などを見せてくれました。
映画の中にも出てきた、ゲストハウスのある街をフェルーザに案内してもらっている時に撮った写真
映画の中にも出てきた、韓国大使館の職員の皆さんや領事の方と撮った写真
フェルーザのお母さんも、13歳の時に望まない結婚をしてとても苦労したので、フェルーザが自分と違う人生を送りたいのだと知って、とても応援していたそうです。
フェルーザとTV電話をしていた時のスクリーンショットですが、下の方に「接続状態がよくありません」と表示されています。
フェルーザと彼女の2番目のお父さんとは、私たちが訪問した時は、あまり馴染んでいない様子でしたが、後からとても仲良くなったと聞きました。
フェルーザが高校に行くようになり、友達と一緒に撮った写真を送ってくれました。
この後、2017年に、ある映画祭でこの作品が上映されることになり、フェルーザも映画祭に招待されて、韓国に来ることになりました。その時に韓国で撮った写真です。
左下の方は、オーストラリア人のドゥエイン・ピーチィ(Dwayne Peachey)さんで、フェルーザの誕生日パーティーで一緒にゲストハウスにいた友人です。
フェルーザの後ろにいるのは、この作品のアニメーションパートを手伝ってくれたカン・ヒジン監督(花コリ2018名古屋ゲスト『花咲く手紙』)です。カン・ヒジン監督の右隣に写っているのは、『空き部屋』『椅子の上の男』のチョン・ダヒ監督です。
フェルーザが映画祭に招待された時、当初は彼女の両親が(彼女が海外に出ることを)心配していたので、韓国に来られないかと思っていたのですが、オーストラリアでNGO活動をしているドゥエインが、彼女を応援してくれました。
当時彼はオーストラリアにいたのですが、映画祭に合わせて韓国に来て、フェルーザを驚かせようと計画していました。しかし、彼女が韓国に来られないかもしれないという話を聞いて非常に驚き、自らエチオピアに飛んで、彼女の両親を説得して、フェルーザを韓国まで連れて来てくれました。
(彼はエチオピアで映画に出演をしており、それなりに認知度がある外国人俳優でもありました)
エチオピアでは紅葉が見られないということで、紅葉の中を案内しました。
初めて彼女と会った時、彼女はテレビで見た韓国の有名な場所に行きたがっていましたが、自分が何か生まれ変われるような体験がしてみたい、バンジージャンプを飛んでみたいと言うので、一緒にやりました。
フェルーザがキム夫妻の家を訪れた時、ヨングンさんが洗濯物をたたんでいると、お礼に手伝ってくれたという動画も紹介されました。
イェヨン:フェルーザが2018年に2度目に韓国に招待された、「ソウル・バリアフリー映画祭」の時の写真です。ヨングンさんの左隣にいるのは、私たちが初めて制作した『お散歩いこ』に出てくる、目の不自由な男の子です。
『お散歩いこ』(2009/8:57/Clay, 2D, Cut-outs)
視覚障害者のヨンガンは病院で寝ているお姉さんを散歩させるために手で触れる地図を作る。お姉さんは目を閉じてヨンガンの手をとり、ヨンガンの作った立体地図の上を手探りしながら仮想の散歩に出かける。
Director's note
入院しているお姉さんのために視覚障害者のヨンガンは立体地図をつくる。お姉さんの手をとり仮想の地図の上へ散歩に出かける。美大生と視覚障害児が歳月をかけてつくりあげた感覚的映像表現の集大成。
このお坊さんは、韓国にフェルーザが来るということを知り、1週間アルバイトをして、本人はお坊さんでお金が要らないので、そのお金をお小遣いとしてフェルーザに渡したという、大変貴重な方です。この方は、(私たちが)世界一周旅行の途中で出会った方です。この格好のままで世界一周をしていて、非常に印象深い方でした。このお坊さんが仏教、フェルーザがイスラム教、『お散歩いこ』に出演した子はキリスト教で、しかもお父さんは牧師で、まさに三大宗教が一つに集ったという、貴重な写真です。
また、驚くべきことに、フェルーザが韓国に来たことで、たくさんの人が注目してくださり、フェルーザを取材した記事が、ポータルサイトのニュースの「いいね」の数で1位になりました。私たちもすごくびっくりしましたが、同時にとても嬉しく思いました。
・聯合ニュース
*韓国語なのでweb翻訳してご一読ください。
このことがきっかけで、フェルーザが衛星放送でいつも見ていた「KBS」に行って、インタビューを受けるという、すごい事件が起こりました。
・KBSニュース
「世界に出たエチオピア少女」(韓国語のみ)
フェルーザがインタビューの中で、自分についていろいろな話をしているのですが、一番印象に残っている部分です。
テロップ訳
「’韓国愛’夢が叶う」
「自分が誰なのかよく知ることができる、熟知できる機会をいただき、理解していただきました。他の人たちも、そうなればいいなと思いました。」
韓国では放送局の中に、「キリスト教放送」というクリスチャンための専門局があるのですが、不思議なことにそちらにも招かれて、ラジオで話をすることになりました。
最後に、空港でのお見送りの写真を見せてくれました。
こうして一人で帰っていくのをみて、心配にもなりましたが、きっとフェルーザがこの後、いろんな困難を乗り越えてくれると信じています。
フェルーザはエチオピアに帰国後、大学に入ったのですが、エチオピアのLG現地法人の財団から、フェルーザの学費を支援するという申し出がありました。また、韓国の(釜山にある)東明大学から、この先、機会があれば本校に留学して、勉強してほしいという誘いもありました。
<質疑応答>
観客1:実にグラフィックが素晴らしくてセンスのいいアニメーションで、こんなに優れたドキュメンタリーを見せていただき、非常に感動しております。当然、ここにいる観客の皆さんもお考えだと思いますが、この作品の続編というか、そういったものを作る予定はあるのでしょうか?フェルーザのその後を描いていくというか…。
イェヨン:じゃあ、作りましょうか(笑)
(会場拍手喝采)
イェヨン:では一生懸命考えてみます。
観客2:次の作品では、フェルーザが憧れるイ・ミンホさん、彼女がスターに会いに行くところをぜひ入れてください。
イェヨン:フェルーザが一番喜ぶと思います。
西村:イ・ミンホさんは、フェルーザさんのことをご存じなんですか?
イェヨン:ミンホさんは、フェルーザのことを知らないと思います。フェルーザが韓国に来た時に、ミンホさんにすごく会いたがっていたんですが、ミンホさんはちょうど兵役の期間中で、会えませんでした。(フェルーザには)そういう風に説明しましたが、ミンホさんは韓国人でも会うのが大変難しいくらい、人気のある方です。
西村:今度、続編の企画書をイ・ミンホさんの事務所に送ってみては(笑)。何が起こるか分からないという期待感が、どんどんつのってきますよね。
観客2:フェルーザが韓国に行ったり、学校に行くようになって、何か夢って変わったりしましたか?
イェヨン:フェルーザが2回目に韓国に来た時に、韓国に2回行ったから、今度は世界一周がしたいと言っていました。
西村:フェルーザさんは今、大学で何を勉強されているんですか?
イェヨン:エチオピアのサマラ大学で英文学を専攻している3年生です。
皆さんも予想がつくと思いますが、ものすごい秀才で、大学のトップ3に入るほど優秀な学生だそうです。ですので、最近では私たちがフェルーザを心配するのではなくて、私たちの方がしっかりしなくちゃいけないな、と思うくらいです。
観客3:作品を見て、実際の写真や映像、アニメーションの部分が織り交ぜてあり、フェルーザさんや他の登場人物の心の動きや、時間の経過の短縮というのが非常にうまいなあと思いました。そういう意味では、組み立て方が素晴らしい映画だと思います。
イェヨン:ありがとうございます。
観客3:アニメーションのパートを見た時に、いろいろなアニメーションの絵柄があると思うのですが、ああいう現代的なポップなスタイルを使おうと思われたきっかけは、何かあったのでしょうか?
ヨングン:この作品は、もともとフェルーザ(が主人公)のアニメーションを作ろうと思って作ったのではなく、フェルーザという少女に出会って、彼女のような少女がいるということを、韓国の人に広く知ってもらいたいという気持ちから作り始めた作品です。なので、技法の面でもどういう見せ方がいいのか、非常に考えました。いろいろなスタイルを考えてみたのですが、その中で最もシンプルで、いろいろな情報が分かりやすく見る人の頭に入るようなイメージを選択しました。
最初はアニメーションだけで作ろうと思ったのですが、それでは、フェルーザの実際の姿や、彼女の魅力が直接伝わらないのではないかと思いました。また、旅行の様子をもっと伝えたいと思い、旅行で撮った写真や映像などを、多く盛り込むことにしました。
観客3:今おっしゃったアニメーションのアイデアは、個人的に非常に成功していると思います。結婚を強制されるというシリアスなエピソードも出てきましたが、その辺りもアニメーションで、ちょっと明るく描かれているので、見る側も非常に受け入れやすくなっていたと思います。全体としてとても感情移入しやすい作品で、良かったと思います。
三重野:愛知淑徳大学の三重野でございます。素晴らしい作品をありがとうございました。本日は、翻訳に携わった学生が何名か来ているので紹介させてください。
(注)『フェルーザの夢とともに』の日本語字幕は、プロの字幕翻訳家である三重野聖愛さん監修のもと、愛知淑徳大学で韓国語を学ぶ学生の皆さんに翻訳していただきました。写真は監督夫妻と字幕翻訳をしてくださった愛知淑徳大学の学生さんたちと先生方。
観客4:作品を観ていると、順調に、あ~良かったなという風になっていますが、考えてみると、国も違うということは習慣も違うし、物の考え方も違うし、いろいろな制度の違いもあって、村ではすごく大変だったんじゃないかと思うのですが、その中で、これは一番大変だったという裏話があればお聞かせください。
ヨングン:いろいろなことがありましたが、特に今思い出されるのは、映像の中に出てくるいろいろな人たち、特にフェルーザの家族の方々が、現地の習慣上、その姿が不特定多数の人に露出してしまって良いのかどうか悩みました。
ですので、作品を作りながら、なかなかつながらないのですがフェルーザと連絡を取りながら、実際に顔が出ても大丈夫なのかなど、確認を取りました。家族からは快諾をいただいて、作品を完成させることができました。
また、国は違っても心は通じていたので、映画を作る上で特に難しいということはありませんでしたが、フェルーザがせっかく韓国に遊びに来てくれたのに、宗教上フェルーザが食べられる物があまりなかったのが、非常に心残りです。
西村:ありがとうございます。それでは最後に一言ずつお願いいたします。
イェヨン:長い時間、私たちの作品とともに話を聞いてくださりありがとうございました。最初に言い忘れたのですが、今日質問していただいた方にDVDを差し上げようと思って用意してまいりました。
先ほど三重野先生がおっしゃってくださいましたが、この作品をこうして上映できたのは、この作品のために字幕翻訳を苦労してくださった学生の皆さんのおかげだと思います。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
ヨングン:この作品は、私たちの他の作品とは違って、何か作品を作らなければと思って企画した作品ではなくて、自分たちの旅行中に起こったできごと、フェルーザという少女との出会いとその思い出、そして愛する人との新婚旅行の思い出、旅で出会った素敵な人たちとの思い出を全部、込めてできたという意味でも、私たちにとって非常に意味深い作品になりました。このように自分たちにとっても大切な作品を、このように日本まで来て、日本の皆さんと一緒に作品を分かち合うことができて、とても嬉しく思います。この場をお借りして、このような場を用意してくださった西村さんをはじめ、シネマコリアの皆さん、KIAFAの方々、それから今回お越しくださった皆様に、あらためて感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございます。
<司会後記>
『フェルーザの夢とともに』は本当に優れた作品だと思う。ドキュメンタリーでありながらエンタメで、エンタメだけど社会派で、社会派だけど感動作で、感動作だけどお涙頂戴になっていない。最後、フェルーザの独白シーンで涙腺崩壊寸前に追い込まれた人は多いと思うが、寸止めして「ひゃっほ~! ファイティン!!」で締めたのには笑ってしまった。複数の要素をバランス良く取り入れて、1本の映画として成立させているのは、見事としかいいようがない。この感想は、ポン・ジュノの長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』をシネマコリアで上映したときに感じたものと同類のものだ。その志向性の違いから、キム・イェヨン、キム・ヨングン監督夫妻が、ポン・ジュノと同じキャリアをたどるとは思わないが、日本から応援し続けるべき作家であることは間違いないだろう。
『フェルーザの夢とともに』の存在を知ったのは、2017年末、韓国インディペンデント・アニメーション協会(KIAFA)から送られてきた『KOREA ANIMATION COLLECTION 2017』に掲載された一枚のスチール写真がきっかけだった。フェルーザの吸い込まれるような美しい瞳に魅せられ、花コリ東京事務局の三宅敦子氏と「これは是非やりたい作品だね」と語り合ったことを昨日のことのように思い出す。日本に紹介するのに多少時間がかかってしまったが、そのおかげで後日談込みで上映できた。これでよかったのだと思う。最後に、一年以上の長きに渡って『フェルーザの夢とともに』に興味を持ち続けられたのは、三宅氏が花コリのSNSで本作の続報を発信し続けて下さったおかげである。記して感謝する。
キム・イェヨン、キム・ヨングン
2010年、花開くコリア・アニメーション名古屋会場、第1回目のゲストとして来日。2013年に新婚旅行先でフェルーザと出会い、その時の出来事をドキュメンタリー『フェルーザの夢とともに』として映画化する。“花コリ”では『お散歩いこ』(2009)、『City』(2010)、『XYZ note』(2011)が上映されている。
『フェルーザの夢とともに』は「世界のアニメーションシアター WAT2019女性監督ドキュメンタリー・アニメーション上映」にて今後も各地で上映されます。
下北沢トリウッドでのWATの上映は7月26日(金)までですが『フェルーザの夢とともに』(Cプロ)をご覧いただけるのは、7月24日(水)14:30~のみ。お見逃しなく!。
その後、京都・出町座で8月31日(土)から2週間上映します。
【関連記事】
・自費出版『Seoul & Animator』イ・ギョンファ監督
*記念すべき一巻目はYOGのお2人を特集している。
・名古屋会場「お散歩いこ」キム・イエヨン、キム・ヨングン監督&花コリスタッフトーク(2010年4月24日)
・大阪会場レポート&「お散歩いこ」ワークショップ (2010年4月17日~23日)
上記の大阪会場レポの動画(ワークショップの模様と完成作品)が旧サイトで作成されたもので、うまく表示されないため、こちらに表示します。
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