花コリ2019名古屋メイキングトーク録 『ラブ・スパーク』キム・ミョンジュ監督

TBSテレビが主催する「DigiCon6 ASIA」でKOREA Goldを受賞するなど、2018年の韓国アニメーションを代表する3DCG作品となった『ラブ・スパーク』。大学の卒業制作として同作を生みだしたキム・ミョンジュ監督に、メイキング資料を交えて、その制作過程、大学で受けてきた教育について、語っていただきました。

日時:7月7日(日)12:00 韓国短編プログラム2 上映終了後
会場:愛知芸術文化センター 12階 アートスペースEF
ゲスト:キム・ミョンジュ(『ラブ・スパーク』監督)
聞き手:岩野一郎(名古屋学芸大学・映像メディア学科講師)
通訳:田中恵美(韓→日)、チェ・ユジン(日→韓)

岩野一郎(以下、岩野):皆さん、こんにちは。名古屋学芸大学でCGの領域を担当をしております、岩野です。今回のトークイベントは、キム・ミョンジュ監督の作品『ラブ・スパーク』のメイキングということで、監督自身に膨大な資料を作っていただきました。僕は、3年前まで専門学校で3DCGアニメーションを教えていました。最近大学に移って、同じくCGを教えています。今日のキム・ミョンジュ監督のメイキング資料は、3DCGアニメーションの理想的な制作工程が網羅されています。日本では、学生が作品をしっかり作れる土壌が、なかなかここまでの水準に達しないので、韓国のCG教育の実際と合わせて、そうした制作の背景を今日見られるのではないかと、内容を非常に楽しみにしているところです。

キム・ミョンジュ(以下キム):こんにちは。『ラブ・スパーク』楽しく見ていただけたでしょうか? キム・ミョンジュと申します。今日は『ラブ・スパーク』のメイキングについて発表します。
『ラブ・スパーク』は、3人のメインメンバーと4人のヘルパーで構成したチームで作った作品です。私は、共同監督として作品に参加しました。今日は作品の監督というよりは、卒業制作を行った一人の大学生として、また映像制作者として、発表したいと思います。

<学校について>

キム:『ラブ・スパーク』は大学の卒業制作として作ったものなので、ここで少し、私の学校について紹介したいと思います。私が通っていた大学は、3年制の青江文化産業大学 청강문화산업대학교という、産業系の大学です。

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キム:私たちの学校での卒業制作のシステムは、CCRC(Cheong-gang Creative Center青江創造センター)を基盤として運営されています。卒業制作を準備する全ての学生が入れる作業空間があり、そこにチーム別に座って、作品制作を進めていきます。1学年で120人ぐらいの学生がいるのですが、1名あたり1台のコンピューターと、3Dアニメーション用のレンダーファーム、会議室、休憩室などの設備が用意され、また技術的なアドバイスを受けられる教授、助教授が常勤しているなど、さまざまな支援が受けられます。10時出勤、夜7時退勤という、規則的な制作活動を行えるような決まりもあります。学生が自らの作品を、実務的な環境のもとで制作し完成させることを、体験してもらう意図があります。

11月、ちょうど2年生の2学期が終わるころに、次年度の卒業制作のための企画発表会があります。
大講堂に2年生が全員集まり、作品の企画を発表したい人はここで発表し、それ以外の人たちは、どのチームの作品に参加するかを選びます。この時、私はチームリーダであるチェ・ユジンさんが発表した企画に賛同して、彼女のチームに入ることにしました。
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<ストーリーについて>

キム:企画当初のあらすじを簡単に言うと、プラグとコンセントが住人の世界があります。その世界の中では、プラグとコンセントたちは仮想の世界に気を取られていて、誰も現実の世界に向き合おうとしません。アナログ的な感性を持つ主人公のプラグは、自分と気の合うコンセントを探そうとして、直接結合したいと願うようになります。仮想の世界で自分と相性がぴったりな相手を見つけ、実際に会って結合を試みるのですが、結合してみたら、お互いの規格が合わずにスパークしてしまいます。でも最後には、お互いのありのままを愛していこう、そういう内容でした。

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キム:このストーリーを発展させるために、スケジュールを決めました。11月から4月の間に冬休みがあるのですが、その間も学校に来て、ストーリーボードを作る作業をしていました。しかし、容易ではありませんでした。最初にコンセプトを聞いた時は面白いと思いましたが、それをいろいろと練っていくうちに、面白味がなくなってしまうのではないかと感じたからです。

岩野:ストーリーボードというのは、いわゆる絵コンテと言われるものです。アニメーションは、制作の前に緻密な設計が必要なのですが、まず今紹介いただいたとおり、プロジェクト期間のうち11月から4月の間、つまり全体の約半分くらいを、絵コンテと*ストーリーリールにあてているんですね。日本の学生作品では、企画の段階でここまで時間を使うことは難しいです。皆さんも何となく、3DCGって、いきなりコンピューターの不思議な力でCG作品が出てくるようなイメージがあると思います。でも実はそんなことはなくて、ここまで紹介していただいたような、コンセプトアートや絵コンテといった膨大なスケッチが積み重ねられて、ようやくCGを使っての作品制作に入っていくんです。この工程は、僕自身も一番関心のあるところです。

*ストーリーリール(StoryReel):絵コンテのような簡易的なドローイングを時間軸上にならべて、カットのつながりや尺などを確認するための映像

キム:岩野先生、ご説明ありがとうございます。
今思い返してみると、ストーリーを詰めるのに大変苦労したのは、この時に、物語をどのように映像化していくかという、視覚的なイメージが全然できていなかったからだと思います。文字に起こしてみた時には面白く思えても、アニメーションの映像として目に見えるような形にしてみると、つまらなく見えたからです。
ストーリーの2次発表の日まで残り少なくなり、ストーリーを仕上げるのに苦労していたのですが、ある日、考え疲れて夕食を食べていた時のことです。その時、ある一つのイメージが浮かんできました。巨大な発電所からプラグたちが出てきて、後ろに電球が付いたコンセントとペアになり、電球が光って空を飛んでいる場面。その中で、相手を見つけられず一人でいる主人公。
これが、そのコンセプトを絵にしたものです。

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キム:簡単に絵の内容を説明すると、コンセントが自分に合う相手を探しているのですが、USBやiPhoneジャック、HDMI、他の国の規格違いのものがあったりして、自分に合わないものにいろいろ出会うことになります。やっと自分に合う相手を見つけるのですが、とても遠くまで走っていたので気付かなかったのですが、その相手とは、実は自分に付いていた尻尾でした。最後に、ひとりぼっちで座りこんで美しい空を見上げる、という物語になりました。このストーリーを考えている間、結合した時に愛の印として電球の灯が点くという表現が、見る人にも非常に分かりやすくて良いと思いました。ただ、明確なイメージはつかめましたが、逆に話がとても単純になってしまいました。なので、もう少し具体的な形で組み立て直してみようと試みました。

ここで、私たちはこの世界の住民たちを、同じ種類のコンセントやプラグとして設定し、デザインしました。全てのプラグとコンセントは、互いに結合して愛を成就させ、電球を点け空に飛んでいくことを望んでいる、という設定も作りました。
世界観としては、真ん中にある発電所からプラグが出てきて、外側にある工場のような構造物からは電球をつけたコンセントが出てくる、そして、全体を遊園地と工場が合体したような雰囲気の世界としてイメージしました。
それからメインのキャラクターは、プラグの片方が壊れていて誰とも合体できず、一人で工具を使って小さな電球をつくっている、さえない「ノード」、身体が大きく重いので、結合しても墜落してしまうコンセントの「トンチ」の2人にしました。このように、キャラクターたちの願い、具体化した世界、その中で規格から外れている2人のキャラクターを設定したところで、自然にストーリーができあがりました。
この時に描いたコンセプトアートの絵を、いくつかお見せします。

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キム:ひとりで小さな電球をつくっているノード、外の明るい電球の光を追いかけてみるが、誰も彼と結合しようとしない…。寂しくゴミ捨て場でガラクタを集めているノード。そこで、電球が割れて気を失っているトンチと出会います。ノードは自分が作った電球をトンチにはめて、修理してあげます。
トンチは目覚めノードに感謝しますが、プラグの片側が短いノードとは、結合したくありません。結局、他のプラグを探しに行きます。
ノードは家に帰り一人で電球を作っていましたが、窓越しに、プラグと結合したものの、重くて墜落しかけているトンチを見つけます。
結局、トンチは自分の重さに耐えかねて、ノードの家に墜落してしまいます。悲しむトンチに、ノードは自分が作ったクリスマスの電飾をかけてあげます。2人は結合し、自分たちにしか出せないさまざまな色とりどりの色で光り輝きます。
最初にお話しした結末とは少し異なりますが、この時に大まかな構成ができあがりました。こうして、ストーリーボードが完成しました。


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<モデリングについて>

キム:次に、3Dの画面上でキャラクターを動かすため、モデリングの作業に入ります。これは、キャラクターを把握するための初期のスケッチです。最初、プラグのキャラクターは彼の臆病な性格が出るように、兜をかぶったような、半球形の造形にしました。コンセントについている電球は、電線で体とつながるのではなく、電球自体がボディについていて、尻尾のように揺れた方がかわいく見えると思ったので、そういう設定にしました。

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キム:初期のドローイングでは、コンセントたちのサイズがとても大きく描かれています。
このように、さまざまなデザインの電球を、企画段階から検討しました。
これは、ある程度イメージが確定した後のドローイングです。一般のコンセントとプラグはスタンダードなボディにして、作業効率のため、全て同じ形態に設定しました。
主人公のコンセントとプラグだけは、他のキャラクターとは異なる特別な形にしました。

絵だけで描いてみると、機械的な構造とサイズ感を想像するのが難しいので、ラフなモデリングをしてみました。

この後、ディテールの部分を3Dでモデリングしていったのですが。プラグの形態が大きく変わりました。実際に作ってみると、半球形のボディだと、さまざまな動作をするのに制約が多いということに気づいて、どんぐりのようなシルエットに変えてみました。他のキャラクターのシルエットにも、少し性格付けをしてみました。

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キム:またドローイングの方に戻って、ディテールの部分のデザインの詰めと、最終的なコンセプトイメージを決めました。

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キム:この後、3DCGの実作業のために、各キャラクターのサイズの設定を作り、すぐに形にしていきました。

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岩野:メイキングが素晴らしすぎて、途中から観客としてボーっと聞いちゃいました。デザインの過程で大きさの違いやシルエットという言葉も出てきましたが、特にメインになるキャラクターというのは視認性が非常に大事で、特に今回のようにメインのキャラクターが2体出てくる場合、パッと見で、どちらのキャラクターを表しているかを瞬時に見分けられることは、アニメーションの表現の中でも非常に重要になります。そのあたりを含めて、大きい小さいの対比、またその中で大きいほうがとても柔らかなフォルムを持っていて、小さいほうは少し硬いフォルムを持っていたりだとか、細部のパーツのサイズ感にも気を遣ってデザインしていることが、すごく良く分かります。絵が決まってすぐにCGにするのではなくて、やはり段階を経て、シンプルなモデルで組んでみた後で完成モデルを作っていますね。CGの場合はどこから見ても成立していなければいけないので、*ブロッキングモデルなどと呼ばれる簡単なキャラクターモデルを作ってから、もう一度2Dの方に戻って細かくデザインして、更に本番のCGの方で直していくというプロセスが取られていて、本当にきちんと作られているのが分かります。

*ブロッキングモデル(Blocking Model) 簡易的なポリゴンを使用して、キャラクターなどの形状のだいたいの形や大きさを把握するためのCGのラフモデル

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キム:今、岩野先生がおっしゃったように、本当にその通りに進めていきました。次に、コンセントのターンテーブルをお見せします。




キム:このように完成させたのですが、問題が起きました。
一連の過程を一人でやっていたので、私の頭の中には(キャラクターの)構造のイメージがあったのですが、その他のキャラクターをモデリングしようとしたメンバーが、難しすぎると言い始めました。一人で全部モデリングするわけにはいかないので、どうするか悩みました。
(説明書を見せて)これ、何かお分かりになりますでしょうか?
ガンダムのプラモデルの組立説明書です。趣味でいくつか作ってみたプラモデルの説明書のように、あらゆるパーツを絵で描いて、どうやって組み立てるかを絵で説明してあげれば、皆が分かるのではないかと思いました。
つまり、CGの組立説明書を作ったわけです。どの部分が軸になっているのか、どことどこが組み合わさって結合しているのか。時間的には、自分が直接モデリングした方が早いなと思いました(笑)。

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キム:しかし、この作業を通して、キャラクターの動きをどのように作れば良いか、確実に分かったような気がします。チームのメンバーも、上手に作ってくれるようになりました。

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<リギングについて>

キム:キャラクターのモデリング作業を終わらせたら、*リギングの作業に入ります。
アニメーションなので、リギングという、キャラクターの手足を動かすためのセッティングの作業をしなければなりません。

*リギング(RIGGING):3DCGモデルに対して、アニメーションをつけるための設定を施す工程

キム:普通のアニメーションは、キャラクターの動きを自然に、あるいは誇張して見せるために、動きの方向に応じてキャラクターが伸びたり縮んだりします。これを「ストレッチ&スクワッシュ」と言います。2Dアニメーションでは、アニメーターが思いのままに絵を描けばいいのですが、3Dでは非常にややこしく手のかかる作業です。でも、私たちにはその必要がありませんでした。登場するキャラクターがロボットだったからです。人間のように腕が曲げられたり、筋肉の形が変わったりしないので。単純に、それぞれのパーツが回転する軸を中心に回転させればいいのです。
ここで簡単に補足すると、あらゆるCGアニメーションが私たちと同じ方法で作られているわけではありません。効率性の問題です。
ちょっと技術的な話になりますが、アニメーションでは、*3dsmax*バイペッドを使いました。このアプリケーションに入っている、アニメーション用の基本的な骨格ツールです。使い方も非常に簡単です。骨の関節の位置をキャラクターの関節の場所と合わせることで、動きがつけられるようになります。

*3dsmax 3DCGアニメーションを作成するための統合的なアプリケーション
*バイペッド(Biped) 3dsmaxに搭載されているアニメーション用の骨格モデル


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岩野:CGアニメーションも、ストップモーションと同じようにキャラクターに骨を入れなければポーズを作れないので、説明のあったバイペッドのような骨を入れてありますね。CGの場合、通常はキャラクターモデルの皮膚と骨とを関連づけて動かせるようにするのですが、今回はロボットだったので、皮膚のような柔らかい設定は必要ありませんね。


<アニメーティングについて>

キム:リギングが終わり、いろいろ動かすことができるようになったので、ストーリーボード通りにレイヤーをつけて、アニメーティング、つまり動きをつけていきます。動きなので、映像で確認していただく方が早いと思います。



キム:今お見せしたのが、ストーリーボードと同じように、アニメーションの動きをつけてみたものです。
先に見ていただいた動きの方が感情表現が弱く、2番目にお見せした動きの方が、感情の表現がより豊かになったことが、お分かりいただけるでしょうか? この変化は、アニメーターが実際に演技したものを参考にし、変わってきたものです。

キム:次に、後ろにエキストラのキャラクターが入ってきます。このようにアニメーティングの作業をしていきますが、途中でメンバーの意見を一つ取り入れました。ロボットなので、ミニチュアで作ったストップモーションアニメーションの雰囲気が出るような、動きをつけてみてはどうかという意見でした。そこで、テスト映像を作ってみました。


キム:何か温かい感じがしますよね?
比較の映像を作ってみました。

24F(1秒間に24フレーム)と12F(1秒間に12フレーム)の比較映像


岩野:いま、スライドの下に24Fと12Fって出ていましたが、1秒間に何フレーム使っているかという数字です。普通の映画は、24枚の静止したイメージで1秒間が構成されていますが、それを12枚で作るとどうなるか?という比較になっていますね。僕も最初に『ラブ・スパーク』を見た時、ストップモーションっぽいなと思ったのですが、これを見ると24Fと12Fとの差がよく分かります。

キム:普通の3Dアニメーションの動きがどういうものかは分かりませんが、とても温かい感じがして、私たちの作品にぴったりのスタイルでした。そして、このように変わりました。



岩野:1秒間を12フレームにする利点はもうひとつあって、レンダリング時間が半分で済むんですね。レンダリングは、1枚の絵を出力するのに、非常に時間がかかりますので。

キム:アニメーティングはこのように進めていき、同時進行で色をつける*マッピングという作業をしました。モデリングが終わったキャラクターを、着色する作業です。
その時にアニメ―ションの「ルック」といいますが、最終的に、どんなスタイルで全体的にどんな雰囲気のアニメーションに仕上げるのかを考えました。
*マッピング(Mapping) CGのオブジェクトの指定場所に色をのせていくための工程

ABZU」という、強烈な色彩と非常に明暗がはっきりしたコントラストでイメージを見せるゲームがあり、このイメージを元にして、私たちのアニメーションにもいろいろ足したいと思いました。しかし先生方からのフィードバックは、非常に単純で特異性がないという意見でした。

そこで、「マシナリウム」というゲームがあるのですが、このゲームの、写実的な材質に歳月の経過が感じられる粗い表面、金属とコンクリートの質感の違いなど、この雰囲気を応用してキャラクターを彩色してみようと思い、このような質感になりました。



キム:私は、このできあがりに非常に満足しています。ロボットという設定、ミニチュアのような温かみ、さまざまな質感から感じられる豊かな表現が、とてもいいなと思いました。しかし、作業量はとんでもないことになりました。作業で取り入れなければならないテクスチャーが、3倍以上になったからです。それでも、私たちは結局この質感を選びました。
その後、プラグの方を、こちらのスタイルに合わせて再度彩色しました。自分で言うのもなんですが、とても満足いくものになりました。私たちの作品にとてもよく合う表現になったと思います。

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キム:しかし、キャラクターを作るだけでは終わりませんでした。




<背景について>

キム:背景を構成する作業があったからです。非常に多くの背景もモデリングしました。

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一つ一つの要素を一生懸命作っていったのですが、部分的に進め過ぎてはいないかと指摘され、全体的に色を合わせてみました。

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キム:完成した映像ではよく見えていない部分なのですが、何となく、この感覚が全体から感じられたのではないかと思います。

月のタワーをお見せします。このようにテストをしましたが、とてもいい感じにできあがりました。
ただ、このシーンはアニメーションには使いませんでした。



キム:こうして、テクスチャーをつけていく作業は全て終わり、次にライティング、レンダリング、コンポジットの作業に入ります。


<ライティングについて>

キム:まずライティングについてですが、アニメートができている場面に黄色で表示されているところが、全てライティングになっています。一つずつ説明しようかと思いましたが、複雑すぎるので映像でお見せします。

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キム:ライティングをしながら、主に考えていたことは、シルエットの強調と、必要のない部分を思い切ってブラックで落としてしまうことでした。暗いところでキャラクターのシルエットが光り輝けば、光の感覚が特別で大切なものに感じられるからです。

<コンポジットについて>

キム:それから、合成のプロセスをお見せします。合成は*コンポジットといいます。

*コンポジット(Composite) 背景やキャラクター、また影や、質感の要素など、一枚の絵を構成するさまざまな素材を組み合わせて最終的にひとつのカットを完成させる工程

岩野:3DCGアニメーションは、*レンダリングと言われる工程で絵を書き出すのですが、そこからさらにコンポジットという工程を経て、空気感や場の雰囲気などを出しています。手前のものがボケたりする被写体深度による効果みたいなものも、このコンポジットの工程で付けていますね。

*レンダリング(Rendering) アニメーションを構成する静止画像をソフトウェアに1枚ずつ書き出す工程

キム:映像で確認いただけたかと思いますが、キャラクターに視線を集中させるために、アウトフォーカス(被写界深度によるピンボケ)を多用しています。私は「マシナリウム」を参考にテクスチャーを作りましたが、映像は「ABZU」のような強烈なコントラストを参考にして作っていきました。強烈な色の力だけでも、ストーリーを感じられると思ったからです。そのため、これら2つのゲーム作品の特徴を混ぜてつくりました。
これは、最終的に色合いを全部合わせてみたものです。

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キム:このように、光の色によって物語が語られていくように構成したことが、お感じいただけたでしょうか?
最初は、暗闇の中にわずかに薄緑色の光が持つ神秘性、2番目は、明るい黄色の光が持つ希望と憧れの気持ち、3番目は、前景は黄色く背景は青い光で、広々とした広場の感じ、4番目は夕焼けのような赤い光で、諦めや孤独感を表現しています。最後は、暗いむらさき味を帯びた背景のもとで、演劇のスポットライトのようにポイントのみを照らして、二人だけがそこに残されているような感覚を、光の色で表現しようとしました。
もちろん、今、申し上げたように感じられることもあれば、異なる雰囲気を感じることもあると思います。
こうして、映像が仕上がっていきました。

<サウンドについて>

キム:最後に、映像で一番重要なサウンドの作業について説明します。
キャラクターが動くと出るギシギシとした音を表現するために、金属などの屑鉄を売っているスクラップ場に行きました。そこでサビた蝶番、壊れたドアノブ、砕けた電球などを買い、サウンドの録音をしました。私たちの学校には、学生たちが自分で録音作業ができる環境があり、申請すれば誰でも使えて、サウンドの録音が可能です。ですので、アニメーションに入っているほとんどのサウンドは、直接ここで録音をしました。
また音楽や声優は、学校の支援を受けて作業しました。声優は、サウンド担当の教授が運営するスタジオでプロの声優の方が録音し、音楽は、他の大学の映像音楽科とのコラボレーションで作業しました。

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キム:このようにして、下記のスケジュールのもと、最終締め切りまでに作品を完成させました。

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キム:この後、学校で卒業制作発表上映会を行い、学校で契約している*配給会社が、学生の代わりにさまざまな映画祭に作品を出品します。

(*学校が契約している配給会社はKIAFAのAniSEEDです)

★これまでの卒業制作が見られる青江文化産業大学のYouYubeチャンネル

キム:最初に卒制の上映を見た時には、涙が出たことを覚えています。
これで発表を終わります。

岩野:ありがとうございます。今回、皆さんもメイキングをご覧になって、3DCGアニメーション作品がどのようにできているのか、よく分かったのではないかと思います。どんな作品でもそうですが、最初にしっかり設計することが非常に大事です。さらに制作に必要な技術をちゃんと積み上げて、欲しい絵を作っていくというところも、とても大事なんですよね。
作品の中でとても感心したのが、星みたいな電球を棚に置く動きです。主人公のキャラクターはいちど電球を棚に置いてから、いったんとりあげてもう一回置き直すんですね。ああいうことがアニメーションでできるのは、非常に丁寧な作り方をしている証拠です。あれって、もう演技の領域なんですね。普通に作ってしまうと、ただ棚に電球を置くだけなんでしょうけど、電球への思いを見せるために、細かい演技を組み立てて作ってあります。非常に丁寧な作業の積み重ねで、こういった作品ができてきたのが分かります。

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作品全体としてみると、子どもの視点からは、かわいいキャラクターの出てくる、すごく楽しいお話っていう風に見えますし、大人が見ると、主人公の顔のプラグが壊れている部分などは、障がいを思わせたりします。また相手がすごく大きい体形をしているのは、コンプレックスを表現しているという風にも見ることができます。他にも、両者が顔を合わせるところは、男女の営みみたいなものにも見ることができませんか? 子どもが見るとそこまで感じないと思いますが、大人が見ると、こういうことかな、ああいうことかな、とメタファー的な見方のできる、多様な構成になっていると思います。
もうひとつは、台詞がないことも非常に重要で、台詞がないことで、この作品は世界中の誰にでもすぐに届けることができるんですね。そのあたりもよく練られていて、奥が深いなあと思える、本当に素晴らしい作品だと思いました。その上で、絵作りに関しても技術的な裏付けがあり、それぞれのカットがすごく丁寧につくられていることも、見どころのポイントだと思います。




<質疑応答>

観客:リアリティーのある作品にすごく感激しましたが、メイキングを見て、あらためて感心しました。リアリティーを出すためには、光源、光を発するものがどこにあるのかが重要だと思っているのですが、広場にキャラクターがいる時に、光を発するものが、上に電球がたくさん付いていたり、他にも光を発するものがあって、光の当たり方が非常に複雑になっていると思うのです。キャラクターのパーツがかなりたくさんあって、光沢の付き方とか影の付き方とか、かなり複雑になっていると思うんです。そういうところで非常に気を付けたことや苦労したことがあれば聞かせてください。

キム:私たちの作品の中で、光を表現するにあたって良かったのは、キャラクターがメタルのパーツをたくさん持っていたことです。メタルのパーツがあって、そこに光が反射することによって、光の表現が非常に豊かになったのではないかと思います。私たちはシルエットを強調して表現しました。そのシルエットを表現したおかげで、光の部分がさらに強調されたのだと思います。

観客:光の複雑さについては? 
光が複数当たっているという点では、何か工夫されたところはありますか?

キム:3Dを作る際、暗い部分はできるだけ少なくした方がいいという意見がありますが、私は、明るい部分を強調するためには、暗さを強調することが必要だと思っています。キャラクターと背景に別々に光を当てて、それぞれ光の調整をしました。なので、キャラクターの光がより強調されたのではないかと思います。これは、3Dであるからこそ可能な作業だと思います。

岩野:キム・ミョンジュ監督、ありがとうございました。こんなにスライドを用意してくれて大変だったと思うんですが、僕自身がすごく勉強になりました。僕の方も大学に持ち帰って、学生に教えたいと思います。




以下はトークの時間上、語られなかったものです。

レンダリングが1フレームに1時間ずつかかり、この作品をレンダリングするにあたって、30台あるレンダーファームが2つあり、CCRCに100台、講義室に約200台、フル活用してネットワーク・レンダリングをかけたとのことです。

キム・ミョンジュ監督は卒業後、花コリ2016で上映した『Johnny Express』のウ・ギョンミン監督のスタジオ「Brick animation studio(주)브릭스튜디오」 に就職し、TVシリーズ『マカ&ロニ』の背景を担当しています。

『マカ&ロニ/발명실의 마카 앤 로니』
天才発明家アルバート博士と彼に従う助手のマカ、新入ロニ。アル博士の研究室は、エキサイティングで奇想天外な発明品でいっぱいだ。トラブルメーカーのマカ&ロニは、今日も博士がいない隙に発明品に触れてしまうのだが…。



今回、名古屋会場のために会社を休んで来てくれました。
名古屋会場開催日1週間前、日本に同行する予定のチェ・ユジン事務局長に、空港にいる監督から1本の電話が…。日本行きを1週間勘違いして、前の週も休みを取ってくれたのでした。

アニメーションをするきっかけについて:漫画家になろうとしたが、漫画専攻で有名な大学に落ちてしまい、青江文化産業大学に行き、映像をつくってみたらうまくできたので、面白いと思い、始めました。

韓国短編プログラム1で上映された『少女に』のキム・ジュンギ監督は、キム・ミョンジュ監督が『XXXY』を制作した時の指導教官でした。『少女に』は青江文化産業大学で制作されたもので、学生の企画発表をする際に先生たちの企画発表もあり、学生は先生の作品に参加することもできるとのことです。
『少女に』の企画発表の時、ミョンジュ監督は2年生だったので参加しなかったとのこと。
指導教官はあまり口を出さない教官が人気だとか。『ラブ・スパーク』の教官はあまり口を出さない方だったがゲームの背景を参考にした時に、もっと複雑なのがいいのでは、とアドバイスしてくれたとのこと。





「後記:岩野」
ここ数年アジアのデジタルコンテンツの作品を集めたASIAGRAPHのコンペティション審査をする中で、韓国からの昨品クオリティーがとても高いことに驚かされていた。なぜだろうと思っていたところ、今回『ラブ・スパーク』のキム・ミョンジュ監督とのトークイベントの機会をいただいた。
質の高い3DCG作品は、たいていその制作工程にしっかりとしたワークフローが敷かれている。今回メイキングを見ることができた『ラブ・スパーク』も例外ではなく、ストーリーやビジュアルデベロップメントにかける時間が圧倒的に日本国内の学生作品と違うと感じた。
今回のようなまとまったメイキングを見ると『ラブ・スパーク』は順調に制作を行ったように見えるが、ストーリーづくりの過程では霧の中を歩くような、先の見えない日々もあったようだ。私も担当する学生たちが、ストーリーづくりで悪戦苦闘している姿をみているが、キム・ミョンジュ監督も同じように、最初のコンセプトから完成に到るストーリー内容の変遷において、模索しながらもようやくひとつの解を導き出したところに親近感を感じた。
3DCGアニメーションは制作の性質上、細分化された制作工程をいくつも積み上げて完成される。特に『ラブ・スパーク』のような緻密な作品は、個人の作家性で見せるアニメーションとは全く違った次元での画作りが必要となる。
丁寧なプリプロダクションと3DCGの制作スキルの上にのみ描き出せる作品を、1年という時間をかけ、3人のメインメンバー(7名のチーム)で作り上げた『ラブ・スパーク』。にこやかで淡々とした語り口の中に、キム・ミョンジュ監督の作品への愛と熱意を強く感じた。


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『ラブ・スパーク/Love Spark』
チェ・ユジン、キム・ミョンジュ 최유진, 김명주 2018 / 08:26 / 3D
誰もが”運命の相手”を探しに月へと行く世界。
孤独なノードは相手を探したいが、誰も気に留めてくれない。自分と似たような境遇のトンチに出会うが、彼女にも無視される。
Director’s note
私たちはみな完璧ではないが、自分だけのやり方で、愛することができる。

『ラブ・スパーク』本編映像



■キム・ミョンジュ 김명주KIM Myungju
青江文化産業大学でアニメーションを専攻。在学中、チェ・ユジンと『XXXY』(2016)、『ラブ・スパーク』(2018)を制作。現在、BRICK STUDIOに所属し、『Johnny Express』のウ・ギョンミン監督が手がけるTVシリーズ『マカ&ロニ』で背景を担当している。

■岩野一郎
名古屋学芸大学映像メディア学科講師。愛知県立芸術大学を卒業後、プロダクトデザイン関連の業界を経て、3DCGアニメーション領域の教育に携わる。2006年制作のアニメーション作品『49』は、SIGGRAPH、Cinanima、文化庁メディア芸術祭ほかで上映された。

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