花コリ2019東京会場トーク録 『土曜日の多世帯住宅』チョン・スンベ監督

今回の上映作『土曜日の多世帯住宅』をはじめ、『2人の少年』『行ってきます』など、花コリでもその精巧な人形アニメーションで注目を集めている、チョン・スンベ監督。同じく立体アニメーション手法を扱って活動している細川晋氏と、互いの制作方法や日韓の現場の違いなど、ストップモーション・アニメーションの世界を語っていただきました。

日時: 2019年4月20日(土)17:40 韓国短編プログラム1の上映終了後
会場: アップリンクファクトリー
ゲスト: チョン・スンベ(『土曜日の多世帯住宅』監督)
聞き手: 細川晋(アニメーション作家)
通訳: 田中恵美


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『土曜日の多世帯住宅 / 토요일다세대주택 / Saturday’s Apartment』
チョン・スンベ 전승배 / 2018 / 07:00 / Puppet
上下階の騒音が原因で苦しんでいる、集合住宅の5世帯の住民たち。
果たして、彼らに穏やかな日々は訪れるのか……?

Director’s note
私は、一週間のうち一番幸せな日は、土曜日だと思う! 
私が暮らすこの我が家も、そうだったらいいな。どうか、土曜日だけでも……?


『土曜日の多世帯住宅』トレーラー



田中:チョン・スンベ監督はストップモーションアニメーションの監督として、花コリでも過去に2作『2人の少年』『行ってきます』を上映しておりまして、今回上映された『土曜日の多世帯住宅』ではDigiCon6アジアで賞を獲得されるなど今、大変活躍されています。
今回、アニメーション作家、また東京工芸大学でアニメーションの助教をされていらっしゃいます細川晋様に聞き手をお願いしています。

細川晋(以下、細川):立体アニメーション、ストップモーションアニメーションを制作している細川と申します。

チョン・スンベ(以下、チョン):私は韓国でストップモーションアニメーションを制作しています、チョン・スンベと申します。このように来日できて、皆さまにお目にかかれてとても嬉しく思っております。

細川:監督は2008年に作家活動を本格的に始められたとプロフィールに書いてあるんですけど、どういった経緯でアニメーションの中でもストップモーションというものに対して興味を持ったのか聞かせてください。

チョン:私は1997年に最初にアニメーションを勉強し始めました。その当時はいわゆる2D、3Dのアニメーションを学んでいる人達がとても多かったんですが、アードマンアニメーションズスタジオの作品を観る機会がありました。私はその時、作品をみてとても魅力的だと思ったのですが、より面白いと思ったのがアニメーションをやっている人たちが、なぜストップモーションをやろうとしないのだろうかということに興味を持ちました。 当時、ストップモーションというのは主流のジャンルではありませんでした。ただ私としては主流じゃないということに余計に魅力を感じていたのだと思います。ストップモーションを続けていきながら、更に新しい物への好奇心も湧いてきましたし、人がやらないからこそ自分がそれを意欲的にやっていきたいという気持ちも起きました。

細川:ストップモーションを一番最初にやった時の感触はどうでしたか?周りがあまりやっていないことにチャレンジした気持ちというのは?

チョン:初めてやってみて、どうして他の人々がやろうとしないのか、その理由が分かりました。ものすごく大変だということが分かったからです。

細川:今回の作品を拝見させていただいて、非常に丁寧な作りだというのが、まず第一の印象としてありました。かなり日常生活を描いた作品ではあるんですが、ストップモーションアニメーションの手法で飛んだり跳ねたりアクションの非常に多い作品でもあって、その中の一つ一つの丁寧な動きが非常に印象深かったです。だいたい、これはどれくらいの時間をかけて制作されたんですか?

チョン:まず、私の作品をよく見てくださり、いい批評をくださりありがとうございます。
この作品は韓国で制作支援を行っている機関がありまして、そこからの援助を受けて作っていまして、だいたい1年くらいかけて1回作ったんですが、もう少し完成度を高めたいと思ったので、その後、他の仕事をしながら合間合間に少しずつ作り直したので時間がかかりました。

細川:その作り直しというのは、付け足したということですか?それとも撮り直したということですか?

チョン:当初、作品の長さはだいたい、このくらい、と考えていたんですが、そこに付け加えて少し長くした部分もあります。また、ストップモーションというのは非常に細かいミスが出てしまうもので、照明のフリッカーが起きてしまったり、想像していなかった動きになってしまったり、というようなことがよくあるのですが、そういった部分を少しずつ修正しながら直していきました。
最初に撮影していた時は、これで満足だと思っていたものが、長い間制作していたので、後で見返すと粗に気付いて、そこを撮り直しをしていたので更に時間がかかってしまった部分もあります。

細川:そうなってくるとだんだん止まらなくなってくると思うんですが、どこで自分をストップさせました?

チョン:確かに細川さんがおっしゃったように、やり出したらキリがないものだと思います。ただある瞬間に、もうこのぐらいにしておかないと、これぐらいでいいか、という瞬間が来まして、それは例えば、一緒に作業している人たちが、もうこれ以上やっていたらしんどいだろうなとか、あと次回作のシナリオや構想が少しずつできてきて、次の作品に移行しなければいけない時期が来たりとか、そういうきっかけで止めるということになります。


<人形について>

細川:繰返しになりますが、非常に丁寧だなという印象が深くて、特にこのスチールにも映っている住宅に住む人々と言いますか、動物と言いますか、フラフープをしているおばさんがいると思うんですが、人形のお腹の周りが揺れ動いたりとか細かい仕草があって、あの辺りの人形の作りの丁寧さがすごく際立っていたと思うんですけれど…。

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5階に住むダイエット中のおばさん

チョン:今回初めて羊毛フェルトという素材を使って人形を作ったので、動かすのに試行錯誤が多かったです。キャラクターを作った方が大変苦労されたと思います。
最初、人形を作るのに、中にアイソピンクという圧縮スタイロフォームという建設用の断熱材を使ったんですが、思ったような動きが出なくて、普通アーマチュアという骨組みを入れるんですが、関節部分が太くて合わず、アルミニウムのワイヤーを使いました。身体の動きをつけたくて私が実際に使っていた形状記憶枕の材料をハサミで切って、形を作り、そこに羊毛フェルトを貼り付けたので、少し楽に動かせるようになりました。

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左:アイソピンク(断熱材)、右:形状記憶枕の材料


細川:人形の造形の方は奥様がやられていると。

チョン:実は人形を作った妻と一緒に日本に来ていまして、前に座っています。

細川:セットもそうですが、人形も含めて世界観の優しい作品でもありつつ、ちょっと不安になる作品でもありつつ。そして最後、家が倒れてその後どうやって暮らしているんだろうという不思議さもありつつ…。あの家の中はどうなったんですか?

チョン:建物が縦に重層的に立っているというのが、この作品の大きなポイントでして、これがもし横に垂直の物を水平にしたらどうなるかなということを作品の大きなコンセプトにしました。またアパートの階間の騒音というのが社会問題としてあるわけですが、それは人間の問題ではなくて、建物の構造に問題があるのではないか、よくアパートの工事の不良というのが問題になりますが、そういうアパートの施工の不良ということも問題視として取り上げたかったですし、縦の物を横に倒して、今までの社会の構造自体も変えてみたいというようなメッセージを込めたいと思いました。

細川:それがこのタイトルにも何か表れているところがあるんですか?

チョン:「土曜日」というのが私の中ではポイントでして、「土曜日」という言葉のイメージとして「余裕」であったり「休む時間」というイメージがありますけれども、このアパートの中だと休みたくても休めないような空間になっている、そういう感じを込めたくてタイトルを決めました。

細川:ここに住んでいる人達は、建物が倒れたことによってまた新しい生活を創り出していくかもしれないという、何か期待を込める形があったんでしょうか?

チョン:そうです。細川さんのおっしゃった通り、屋上で皆で仲良くガーデンパーティーをすることになり、そこからアパートが倒れるわけですが、その後の皆の暮らしを見てみると、例えば子どもが落ちそうになった時に皆で助けに行ったりですとか、一つ構造が縦から横になることで、皆が平和になる平等になる、そういった物を表現したいと思いました。

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<ライティングについて>

細川:作品の技術的なことに戻るんですが、作品の中で、自分として非常に印象深いことが造形的な事と、もう一つライティングが非常に丁寧で綺麗だなと思ったんですが、何かライティングでのこだわりというものがありますか?

チョン:実は照明は蛍光灯なんです。特に特別なこだわりや工夫をしているということではないのですが、日本の作品をいろいろみて、例えばドワーフスタジオ『こまねこ』を見たのですが、照明使いがとても美しくて、そういった他の作品をいろいろ見ることによって勉強になり、私も他の作品の照明の良いところを取り入れて綺麗な照明で作品を作っていきたいという気持ちがありました。

細川:これはどちらかというと自分の感想なんですが、ライティングをする上で夕焼けであるとか、青空というものは、比較的作りやすい部分があると思うんですが、ただ室内の白っぽい明かりがすごく綺麗だなと思って、そこのところがすごく印象に残っています。

チョン:ありがとうございます。

細川:立体アニメーションを作る時に、これは後で少し聞きたいことなんですが、大きいスタジオではない場合、やはりライティングが非常に難しくてですね、造形をすることは比較的うまい人もいるんですが、どうしても強く光を当てる、柔らかく光を当てる、暗く光を当てるということが難しいことがありまして、そういう意味でいうと、この作品を拝見した時に、そこがすごく綺麗にできているので、自分としてはすごく気になったところです。

チョン:ありがとうございます。


<セットについて>

細川:ちなみに人形の大きさやセットはどれぐらいの大きさだったのでしょうか?

チョン:まず、セットを作るときにだいたい自分の腕が全部届くぐらいの大きさにしなければならないと思いました。人形を大きくしてしまうとその分セットも大きくしなければなりませんし、そうすると作業空間の確保も難しくなってきます。ですので人形はだいたい20cmくらいの大きさにしました。

細川:(目の前のテーブルを示して)ひと部屋のセットが人形置いて、カメラを置いて、だいたいこれくらい?

チョン:そうです。セットはいくつかに分けて作っていますが、一つのセットが120cm x 90cmの撮影台にのっかる大きさで、室内サイズは60cm x 70cmくらいです。建物全体が出るカットは部分撮影をし、背景に合成して大きなイメージを作りました。
私がセットを作るときに、人形が動き回る範囲はしっかり全部作り込まなければいけないと思っているんですが、ただ窓の外に見える部分というのはスペースがないので少し小さめに作って奥行きが感じられるようにしました。

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アパートは高さが60cmくらいで小さく作って背景と合成


細川:ちなみに一つのセットを作って、撮影して、次のシーンに行くのか、何班体制の形を取って撮ることができたのか…?

チョン:まずストーリーボード(絵コンテ)を基準にして、3面必要なら3面作って撮るという風にしていました。その3面を必要に応じて向きを変えながら撮っていきました。


<アニメートについて>

細川:アニメーターは何人ぐらいで、どういう形で撮っていったのでしょうか?

チョン:アニメートは私が一人で全部やりました。

細川:大変ですよね。同時にこれだけのキャラクターが出て来て、同時に動くということも含めて。ただ自分でコントロールしやすいという部分もあると思うんですが、だからこそ撮り直しをしたくなるという、そういったことが合ったと思うんですが。

チョン:はぁ~(大きなため息)。キャラクターが一斉に沢山出てくる、手のかかるモブシーンがあるんですが、どうやって撮ろうか、かなり悩みました。これ撮らないで違った形で撮っちゃだめかなぁ、絵コンテ描いてる時点で既に恐ろしかったです。絵コンテ描いてる時も、このカットを別々に撮る演出はどうだろうか、全体が出てくる感じはどうだろうか、とか…。でも全員で走っていく方が緊迫感をよりうまく見せられるだろうと思い、同時にキャラクターが出るカットにし、何度も撮り直しました。

細川:描きたくなるんですよね。たくさん入れたくなるというか、それも面白いですからね。
一体一体、性別も違えば年齢層も違うキャラクターたちが、一人ひとり、ちゃんと個性豊かに描かれてたと思うんですが、その辺り、アニメーションをつける上で、工夫したことありますか?

チョン:まず多世帯住宅は計5階なんですが、その中に、さまざまな世代の人がいるようなお話の構造にしたかったんです。10代、20代、30代、40代、50代。それぞれの家というか部屋に住んでいる人たちが一つの家族になるような、そういう最終的な到達点を考えて、このキャラクターをそれぞれ設定しました。
それぞれの階にいる人達が、1階はミュージシャンの若者、2階がDIYで自分の空間を作る人、3階が子どもを育てる母親、子どもの泣く声、4階がシナリオを書いていてイライラしていて騒音を出してしまう人、5階がダイエットのために運動して音を出してしまう少し歳のいったおばさんで、それぞれの階層が人間の一生の欲望というものを何となく表しているようなコンセプトにしています。


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2階に住むキリン


<質疑応答>

質問者:お話の元になった、インスピレーションを受けたものが何かあるのですか?

チョン:私も実はアパートの騒音のせいで引っ越しをしたことがあります。また親戚からアパートの騒音のせいで辛い思いをしているという話を聞いたことがあります。私が入っているスタジオも5階建ての建物でこの作品のモデルとなっているんですが、そこで作業をしていても、いろんな騒音が聞こえてくるんです。それを作品として、一度にまとめて見せたら、観る人も面白くみてもらえるし、楽しく騒音の問題について考えてもらえると思ってこの作品を作りました。

細川:今回の上映は人形アニメーション、立体アニメーション作品が多くて、キム・ジンマン監督のカエルの作品『Dancing Frog』や、一番最初に上映されたパク・セホン監督の『妖怪進撃図』もあったんですが、ここ数年あまり韓国の人形アニメーションを見ていなかったものですから、韓国の作品が、またどんどん進化をしているということが自分としても新しい発見でした。

最後に韓国の人形アニメーション事情について、少しお話していただいて、何か最後にメッセージをいただければと思うんですが。

チョン:私もこのように韓国でストップモーションの作品がいくつも出てくるというのは非常にいいことだと思います。作る大変さを分かっているだけに、苦労してできた作品がどんどんでてきてくれることが非常に嬉しいです。ただ韓国のアニメーションの世界というのは、作られる物に偏りがある状態でして、3Dの作品であるか、あるいは幼児教育用の物であるとか、市場ではこれらの物の比重が非常に大きくなっていて、多様な物が出て来にくい状態にあります。この上映のような作家たちがもっと活発に活動してくれれば、もっとさまざまな多様な作品がたくさん出てくることだろうと思います。

週末のお忙しい時間の中、わざわざお出掛けくださって、作品をご覧いただけたこと、大変嬉しく思っております。ありがとうございました。

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チョン・スンベ 전승배 JEON Seungbae
『土曜日の多世帯住宅』『2人の少年の時間』『行ってきます』など、さまざまなメッセージを込めた精巧な人形アニメーション作品を発表している。CF制作や立体キャラクター・デザインなど、多方面で活躍中。Toyville Animation Studio主宰。
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