花コリ2019大阪会場トーク録:『妖怪進撃図』パク・セホン監督

スペシャルイベントその2「パク・セホン監督トーク」
2019年4月6日(土)15:15~ 韓国短編プログラム1「現実のチカラ」終了後
ゲスト:パク・セホン(『妖怪進撃図』監督)
進行:小川 泉『ラストメッセージ』、チェ・ユジン(KIAFA事務局長)
通訳:田中恵美


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『妖怪進撃図 / 요괴진격도 / Monster Picture』
パク・セホン 박세홍 / 2018 / 07:13 / Puppet
「妖怪進撃図」は、掛け軸の封印から解放された妖怪と、科挙の試験に落ち続けて、出世や栄華のみを求めていた朝鮮時代のソンビ(士大夫)との物語です。日常の平凡で小さな幸せを見落として生きてきたことを、後になって悟るという内容を描いています。

Director’s note
出世や名誉、富、そして自らの目標という名分のもと、いつの間にか人が妖怪となって、誰かの犠牲と真心を見落としたまま生きるという最近の世相を、古典的な雰囲気の手作りの人形と、ミニチュアの背景が織りなす人形アニメーションで表現しようと試みました。



小川泉(以下、小川):簡単にゲストの監督のご紹介をします。
パク・セホン監督は、もともと、人形アニメーションの人形の造形ですとか、骨組みを制作されているところからキャリアをスタートされまして、韓国には日本でいうNHKEテレのようなEBSという教育テレビの局があるのですが、そこで放送される子ども向けアニメーションシリーズの作品の造形をされたり、サムソンのCFやテレビCF等に携わってこられました。
ただいまのプログラムで見ていただいた『妖怪進撃図』が監督としての最初の作品、デビュー作であり、去年、韓国での「インディ・アニフェスト2018」でデビュー賞を受賞されました。現在は「活動人形工房」をご自身で運営されています。


<きっかけについて>

チェ・ユジン(以下、ユジン):さきほど経歴のことを紹介されましたが、監督として、この作品を初めて作ったということですが、なぜ監督として作りたいと思ったのか、きっかけなどがあれば教えてください。

パク・セホン(以下、パク):(日本語で)はじめまして、パク・セホンと言います。
最初は人形同好会というような場所でフィギュアを自主制作することから始めて、アニメーションの仕事に入りましたが、自分でも人形を動かしてストーリーを作ってみたいと思ったことがきっかけです。

ユジン:アニメーションの会社に入ってからですか?それともその同好会の時からですか?

パク:人形同好会の時に、他の人達は動かないフィギュアを作っていたのですが、私は動くフィギュアが好きで、その時、よく作っていたのですが、会社で制作に参加していた時は、子ども用のアニメーション作品を作ることが多くて。会社では最初、人形のアーマチュア(骨組みとも言う:人形アニメーションの人形の中に入れる関節を固定できる主に金属でできた骨組み)を作る担当を主にしていて、自分の作業が終わると他の部署を手伝うということをしていました。ただ会社で働いていると進めていたプロジェクトが中断することもあったりしたので、そういう時に、自分の作った人形で、自分で何か一つ作り上げたいと思ったのと、大人も見られるようなリアルな感じの作品を作ってみたいとも思いました。

ユジン:大人も見られるようなリアルな作品を作りたかったとのことですが、もともと、リアルな人形を作るのが好きだったのでしょうか?

パク:マンガもそうですが、キャラクターの中に劇画的映画表現というのがありますが、日本の川本喜八郎監督の伝統人形を使った人形アニメーションをみて、非常にリアルな人形の表現など、そういうところからインスピレーションを得たりもしました。そこから私も韓国の伝統的な雰囲気にファンタジーを加えたものを作りたいと思って、今回の作品になりました。

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<ストーリーについて>

ユジン:この作品のお話は監督オリジナルのものですか?

パク:100%オリジナルだとは言えないと思います。例えば絵の中に閉じ込められるというモチーフは、韓国にあるものですし、日本や中国にもあるものではないかと思います。

ユジン:韓国の伝統的な風景を使っていますが、韓国人なら誰もが気づくと思うんですが、外国の人がみたら分かりにくい要素もあったと思うのですが、それについて少し質問をしたいと思います。最初に主人公が何かの試験に落ちたというシーンがありますが、その試験が何なのか少し説明をしていただけたらと思います。

パク:韓国では昔、科挙試験というものがあり、現在の公務員試験のようなもので韓国では公試というのですが、今でも公務員試験に向けて専門の勉強をしている人がいっぱいいるんですが、そういう公務員試験に向けて一生懸命勉強してた人たちの様子を描いています。出世の近道というか、出世のきっかけをつくる試験ですね。

小川:最初の方で馬に乗って堂々としてた人が受かった人ということですね?

パク:その通りです。馬に乗ってた人が試験に合格して役人になった人です。

ユジン:皆さんは気付いてないかもしれませんが、掲示板に合格者の名前が書かれた紙が貼ってあったんですが、その中にご自身の名前も書いてあったんですが(笑)。

パク:そうです。私はソウルアニメーションセンターからアーティスト・イン・レジデンスみたいに制作空間を借りて制作していたのですが、同じくそこに入っていた作家たちの名前も書きました。

ユジン:自分の名前があることをその方たちは知ってますか?

パク:全員、許可を得て載せました。

ユジン:合格者の名前に入ってたので、皆さん喜んでいたでしょうね(笑)。

     妖怪と最初に戦っていた人がいたと思うんですが、その人が誰なのか、説明を。

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▲妖怪と最初に戦っていた人

パク:あの人は役人の中でも「武官」と言って戦いの部分を担当する役人です。

ユジン:たぶん韓国人だったら、服装だけで、彼がどんな人か気付くと思うんですが。
こんな感じで、何か分からないことがありましたら質問してください。

小川:その役人の方は、現実では何と戦っているんですか?

パク:現実では警察のように村を守ったり警備したりしています。


<人形について>

ユジン:人形の紹介を少しお願いします。

田中:もしかして、この怪物は韓国の伝統的な怪物かと思う方がいるんじゃないかと、さっき話してたので、お聞きしたのですが、この怪物は監督が想像して完全にオリジナルで作ったものだそうです。

小川:日本だと角が生えてると「鬼」というイメージがあるんですが…。

パク:韓国でも「トッケビ도깨비」と言う、角の生えた鬼に似た存在の妖怪というか想像上の生き物がいるのですが、それをモチーフとして使っている部分もあります。韓国のトッケビというのは、ちょっとユーモラスでお腹が出たりしているのですが、この怪物はできるだけ強そうに見せたかったので、お腹もすっきりして筋肉隆々なギリシャ彫刻のような造形にしました。

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ユジン:キャラクターデザインもご自身でされたということで。

パク:はい。キャラクターデザインをする時は、スケッチをして絵を描いていくというよりは、資料をいろいろ見たりして、立体造形をしながらキャラクターにしていきました。

ユジン:人形の筋肉とか、本当にすごいので、作るのにどれくらい時間がかかったのでしょうか?

パク:一つつくるのに3週間以上かかりました。

小川:今回の撮影で、この一体だけを作ったのですか?

パク:はい、それぞれのキャラクターを1体ずつ作り、最初から最後まで同じ物を使いました。


<質疑応答>

質問1:造形の方がご専門ということですが、アニメーションの方はどうやって勉強されたのでしょうか?

パク:アニメーションの動かす方というのは、最初アーマチュア制作やキャラクターデザイン担当でアニメーション会社に入ったのですが、アシスタント・アニメーターもやって、先輩たちのやっているところを見ながら学んでいきました。編集とかも本当は専門ではなかったのですが、基本的なことを見様見真似でやっていました。

質問2:アニメーションを作る会社というのは、造形をする会社と一緒なのか、もともと会社に入る経緯は何だったのでしょうか?

パク:最初は同好会の活動をしながら、仕事としてはアクセサリーのパーツを作る仕事をしていて、その技術を利用して人形の骨組みを作っていたんですが、ストップモーションアニメーションの会社が人を募集しているというのを聞きまして、ポートフォリオを送って採用してもらいました。

小川:そのストップモーションアニメーションの会社は、造形から撮影から編集まで全部やってたんですか?

パク:ストップモーションアニメーションの会社で、人形の造形から撮影、編集まで一通りやる会社でした。主にクレイで顔の表情等を作る会社でした。

ユジン:韓国ではあまりコマ撮りのアニメーションの会社はないと思うんですが…。

パク:私が働いていた会社は、十数年その会社にいたのですが、2018年前にプロジェクトが中断して潰れてしまい解体し、そこから独立をして今は10人ぐらいでやってる大きいプロダクションが2つくらいと、あとは個人でやっているスタジオがいくつかある状態です。

質問3:朝鮮時代の背景を使ってますが、朝鮮時代を舞台にしたアニメーションを今まであまり見る機会がなかったのですが、この時代を選んだ何か特別な理由はありますか?

パク:小道具やセットを作るにあたって、自分一人で作業しなければならないので、現代的な内容やSF的な内容のものを作るというよりも、藁ぶき屋根の家とか、アナログ的に自分の手で作れる素材がいいと思い、この時代を最初から念頭に入れて制作しました。

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▲作品画像より

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▲インディ・アニフェスト2018展示より

ユジン:朝鮮時代の背景を使った方が自分の作品で表したい表現がしやすいと思ったのでしょうか?それともイメージ的にその背景が自分にとって親しみがあったのでしょうか?

パク:自分が伝えたかったテーマもあるのですが、ファンタジーな部分も入れたかったというのがあるので、それなら時代物にした方がよく合うのではないかと思い、こういうコンセプトの作品にしました。

質問4:時代物にしては、格闘シーンが、腕をかなり決めてきますよね。あれは現代の総合格闘技の感じがしたのですが…。ひょっとして監督は総合格闘技のファンなのかなと思いまして。

パク:(日本語で)ありがとうございます!
アニメーションなので、そういう部分はアンバランスにしたら面白いかなと思って、それを念頭に置いて、格闘シーンは敢えてああいう表現にしました。

小川:格闘技は、よくご覧になったりするんですか?

パク:参考にしようと思って、観たりはしました。あと大きい怪物と小さい人間が戦うというシチュエーションだったのですが、空を飛んで戦うという設定にすれば、大きい小さいの関係性が変わるかなと思って、2人を平等に戦わせるために敢えて空中戦にするという設定にしました。
怪物が力の象徴とすると人間の方が技術の象徴という感じで考えました。

ユジン:アクションシーンがすごかったと思いますが、そのシーンのために参考にした映像等ありますか?

パク:ドラゴンボールです。すごく好きなので。

ユジン:去年初めてインディ・アニフェストで上映して、自分で監督として作った初めての作品を上映したことになりますが、その時の観客の反応を見て、どう思いましたか?

パク:少し意外でした。自分が意図してない部分で、ものすごくウケたりしていたので。一人で制作しているとどうしても時間的に制約があって長い物が作れないので、省略したりした部分もあったんですが、そうやって省略した部分を見た時に、観客が話が飛んじゃって面白いとか、そういう風にウケた部分があったようです。例えば最初に戦っていた武官が急に死んじゃったり、急に10年過ぎたとか、そういうところで、どっとウケました。

小川:私は去年のインディ・アニフェストで初めてこの作品を見たんですが、観客の反応というか、皆さんけっこうまじめな感じで最初は見てるんですが、だんだん、あ、おなら!?みたいな(笑)。お腹の調子が悪いの?ってだんだんクスクスってなっていって、最後は皆、大爆笑みたいな感じになっていて。作品の並び的にも他の作品がしっかり神妙に見る作品が多いんですが、これだけこうウケていた作品っていうのはこれが一番だったので、すごく印象に残っています。

ユジン:人形はすごいちゃんとしてるじゃないですか。

小川:人形もすごくリアルな感じで、監督ご自身も、佇まいがこういう方じゃないですか。だからすごく意外な作品でした。

パク:(日本語で)ありがとうございます(笑)。

ユジン:この作品でデビュー賞をもらいましたが、その後何か変わったこととか、自分の中で変わったこととか、周りが変わったこととか…。

パク:アニメーションをやっている、と周りの人にいうと何をしている人なのか、という反応だったのですが、こうやって作品を作って賞をもらったり、日本にまで呼んでもらえるということになると、周りの態度も変わってきたような気がします。
もちろん作品を作っていると自分で欲が出てきたり、もっと自信がついたりというのはありますが、だからといって監督だけじゃなくて、自分の作品だけを作りたいんだというのではなくて、スタッフとして声がかかれば、いつでも一スタッフとして他の人の作品に参加するように取り組んでいきたいという気持ちは忘れないように心がけていきたいです。自分がこれからどうなるかは分かりませんが、川本喜八郎監督のように、お年を召されても精力的に作品を作っていらっしゃったのを見ていますので、一スタッフであれ、個人の作品であれ、いろいろこれからも取り組んでいきたいと思っています。

ユジン:最後にこれからの計画について教えてください。

パク:この作品が入賞したおかげで、公共から制作支援をもらうことができました。それで次回作として『龍のいない村』という作品を今、準備しています。
ある村で、龍という象徴をテーマに巻き起こる話というのを描こうと思っています。一組の兄弟をめぐって、兄は龍を育ててはいけない、弟は育てなければならないという葛藤を現代的なテーマに通じるようなものにしていきたいと思っています。

質問5:今回の作品はスポンサーなしで完全に自主制作になるのですか?

パク:アニメーションの制作費の支援はいただけなかったのですが、アニメーションセンターの方から作業できるスタジオを提供していただくという形で空間支援をいただきました。『妖怪進撃図』を作ってた時はセンターから空間支援をいただいて制作支援費はいただけなくて、今度はその空間は出なければならなくなったけれど、制作支援はいただけることになったと、アンバランスな状態になってしまいました。

ユジン:最後に感想を。

パク:上映を見に来ていただき、本当にありがとうございます。

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パク・セホン(『妖怪進撃図』監督)
人形アニメーションに使うミニチュアや人形の関節制作技師として、テレビシリーズ『ギャラクシー・キッズ1』(KBS1、2015~2016)や「サムソン電子」CF、チョン・スンベ監督作品『2人の少年の時間』など、さまざまなストップモーション作品に参加。初の監督作品である人形アニメーション『妖怪進撃図』(2018)は、「インディ・アニフェスト2018」で見事デビュー賞を受賞した。現在「活動人形工房」を運営、人形アニメーションを制作している。

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