花コリ2019東京会場トーク録 『マイリトルゴート』見里朝希監督

「インディ・アニフェスト」のアジアコンペティション部門で、『あたしだけをみて』『マイリトルゴート』と2度も観客賞を受賞している見里朝希監督。その作品は、韓国だけでなく世界の映画祭で評価され続けています。立体アニメーション技法を用いて、毎回さまざまなテーマに挑戦している見里監督に、制作について語っていただきました。

日時:4月21日(日)17:40 アジア短編プログラムの上映終了後
会場:アップリンクファクトリー
ゲスト: 見里朝希(『マイリトルゴート』監督)


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『マイリトルゴート/ My Little Goat』
2018 / 10:13 / Puppet / 日本
オオカミに食べられてしまった子ヤギ達を胃袋から助け出すお母さんヤギ。しかし、長男のトルクだけが見つからない!



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見里朝希監督(以下、見里):本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。 『マイリトルゴート』というコマ撮りアニメーションを制作しました見里朝希と申します。これから20分間駆け足になりますが、 『マイリトルゴート』のメイキングの話をしていけたらと思います。


<制作のきっかけ>

『マイリトルゴート』という作品を作ろうと思ったきっかけは、有名なグリム童話の『オオカミと7匹の子ヤギ』というお話をベースにしているんですが、そのお話は最後の方で、お母さんヤギがオオカミのお腹を切って子ヤギたちを助け出すというお話なんですが、もしオオカミの胃袋の中で子ヤギたちの消化活動が始まっていたらということを想像したことをきっかけに物語制作を始めました。

一番最初に物語の雰囲気や演出や構図、色彩を先に決めたかったので、こんな感じでコンセプトアートといいますか、最初に絵で描いて、どんな感じの場面を演出したいかということを考えていきました。

この作品は、親の愛情の狂気をテーマにしていて、親の過剰な愛情というものは果たして正義なのか?といった疑問を見る人に思わせたかったというのがあります。ネグレクトや育児放棄というのは、いけないことですし犯罪につながるんですけど、でも過保護というのは決して犯罪ではありません。でも自分自身の事を学ばせる機会を親が奪ってしまっているんじゃないかと思いました。
この話で親としてお母さんヤギと人間のお父さんが登場するんですが、その2人に共通しているものは、愛情の狂気というもので、この絵ではお父さんはオオカミの姿になっていますが、性的虐待をしているという意味で、オオカミの姿に変えることで、人間の男の子を襲うということで、その人を演出していて、お母さんヤギはお母さんヤギで過去に子ども達がオオカミに食べられてしまって、消化液でひどい姿になってしまって、さらにトルクという長男を失ってしまったということで、子ども達を家の中に監禁して閉じ込めてしまうという…。なので、そういった親によって、大人によって翻弄されている子ども達という点では、人間の男の子のナツキ君という人物と子ヤギたちはある意味共通点を持っているので、それがきっかけで徐々に絆が生まれていって最後は主人公の男の子が襲われている時に子ヤギたちが協力してお父さんに立ち向かうといった演出を考えました。

本当にやりたいシーンというのは最初のコンセプトアートの時点でほとんど決めておきました。それが決まった後にキャラクターデザインを固めていったり、絵コンテを描いてそれをビデオコンテにしてタイミングや、より細かく具体的に物語の進め方を決めていきました。


<人形制作について>

これは人形を制作している時の写真ですね。素材は主に羊毛フェルトというものを使っていて、素材が今回のアニメーションのテーマにも合っているのではないかということと、フェルトならではの柔らかさを生かして人形のキャラクターの表情をより細かく伝えられるというところも個人的にはすごくいいなと思って、この素材を使っていきました。

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眼球とかも全て手作りで作っています。粘土に絵具で瞳を描いて、最終的にはレジン液を垂らしてテカりを入れたりしました。
人形を作っている場所は、私の祖母の畳の部屋を借りて制作をしていました。

一番最初にこの作品を企画していた時、あまりにも物語が長くなりすぎてしまって、最初のゼミの相談では30分くらいの作品になってしまうんじゃないかという指摘もあって、そこからどんどん削っていきました。しかし、その中に主人公のナツキ君のお父さんのことを説明するためのシーンを入れるつもりで、そのお父さんのママ友として、こういったキャラクターも作っていて、人形も作っていたんですが、長すぎるのもよくないし、そこのシーンを入れてしまうとただしゃべっているだけのシーンになってしまうのでアニメーションとしては退屈なものになってしまうんじゃないかなと思ったので、結局全部カットしてしまいました。なのでこの人形を使うことがなくなってしまったのが少しもったいなかったのでこんな感じでポスターにしたり雑誌の表紙にしたりして地味ですけど活躍の場をもたせました。


<セットの制作について>

この時点で子ヤギたちがどの位置にどう隠れるかということを考えた上で制作をスタートしました。東京藝術大学大学院の横浜校舎のロビーのところで制作をしている写真です。お金がなかったので、たまたまその辺に捨てられていた床マットをハサミで切ってニスを塗って、ちょっと木っぽく見せたりして低予算で制作をしていきました。
家具を制作したり、時計は数字を描いたり…。
これは組み立てている様子です。実際にセットの大きさはこのくらいになって、セットを駅から運ぶ作業もあったのですが、それが本当に大変でした。最終的にはこんな感じの仕上がりになって、いよいよ撮影が始まったという感じです。
東京藝術大学のスタジオを使って、約5m×5mくらいの暗室を使って制作をしていきました。


<カメラについて>

今回はあまり三脚とかを使っていなくて、できるだけその子ども目線の高さでカメラを動かしていきたかったので、スタイロの上にただカメラを置くだけというか、アナログなやり方でカメラを動かして撮影していきました。

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<後半のアクションシーンについて>

カメラがたくさん動くんですが約35秒ぐらいのロングカットで、カメラの高さを変えるのも、徐々に板を入れて高さを変えていったり、角度を変えたりしてうまいことカメラワークを頑張って作りました。
途中ですごく悩んだシーンがありまして、それは合体のシーンなんですが、今回のテーマはホラーなのでこの要素を入れてしまうと怖い要素がだいぶ半減されてしまうんじゃないかという不安があったんですけど、せっかく人形6体作ったのに合体させないのはもったいないなと思って、まだ学生の身分でもあったので、やっぱりやりたいことはやらなきゃと思って作りました。実際に人形の後ろ側は太い針金を貫通するぐらいブッ刺して虫ピンとか針金を使って倒れないように苦労しながら撮影していきました。本当はこういう撮影方法はよくないと思うんですが、学校にたまたまあった救急箱をカメラの下に置いて撮影したりとか、今回ちゃんとした三脚は使うことはなかったですね。

締め切等に追われている中で、うまいこと見せようと思いながら制作していたので、外の背景のシーンを全く作っていなかったんですが、森があるように見えるシーンも実はお粗末というか割といい加減に組んでいるんですが、できるだけ露出とかを生かして外っぽく見せたり工夫をして演出を頑張ってみました。


<効果音について>

最後に撮影が終わった後に、今回、ホラー作品なので、たくさんの効果音が他の学生より必要だったので、効果音集めが大変でした。この写真はホーリー録音といって、例えば床を歩く音とか、鎖を触る音とかを実際にマイクで録音してそれを映像に取り入れていっているところです。

メイキングの話はこれで以上になります。


<質疑応答>

質問者1:すごく楽しい作品で映画祭で何度も見させてもらって面白いなあと思っていたのですが、見るたびに発見があって、すごい作り込んでいるなあと思いました。質問ですが、だいぶストーリーから削られたというお話でしたが、この作品、主人公の敵になる存在と見方になる存在の切り替わりがすごくうまいなと思ってて、どういうことを意識しながら敵と味方を入れ替えていったのかなあということをお聞かせいただければと思います。

見里:本当に最初、この企画を考えている時は主人公はこの男の子ではなくて、お父さんを主人公にして、お母さんヤギにさらわれてしまった男の子を救うためにヤギの家に行って探すお父さんの物語というのを最初は考えていました。ただお父さんサイドにしてしまうと、お母さんヤギにさらわれてしまう前のシーンとかも考えていたんですが、先ほども述べたように台詞だけの作品になってしまうという、動きがなくて退屈なものになってしまうので、一番魅力的な場所であるヤギの家の中をメインにした作品を作ろうと思い、それによって主人公をお父さんから男の子に切り替えました。
最初の段階でこういう絵を描いていたんですが、一番最初からこういう怖いヤギたちに出会うんだけど、最終的には仲間というか助けてくれる存在になって、子ヤギたちと主人公の人間の男の子の絆が生まれ、最終的には、男の子はトルクという子ヤギではなかったんだけど、家族として迎え入れてもらえるという結末を持って、それを軸にして肉付けをしたり削ったりした作業をしていって、それが特に時間がかかりました。

質問者2:素朴な疑問なんですが、フェルトの素材はアニメを作ること以外だったらどのような用途で使われる物を使っているのかなと。

見里:普段、羊毛フェルトで見かけるものはやっぱりフィギュアを羊毛フェルトで作る人もいれば、ハンドメイドでアクセサリーを作ってフリーマーケットで販売している人とかもいて、主にユザワ屋とか、裁縫屋さんで売られている素材なんですけど、きっかけとしては学生の身分で金銭的にも手が届きやすい物だったということがきっかけでこの素材に手を付け始めて、実際に触ってみると思ったより柔らかくてキャラクターの表情が本当に自由に動かせるなと思ったので、アニメーションにも生かしたいと思って利用しました。
顔の表情にこだわっているのはピクサーとかの作品の影響もあると思います。

質問者2:可愛らしさとホラーのギャップが萌えみたいな感じで良かったです。

見里:ありがとうございます。

質問者3:お母さんヤギが最後に罠みたいなものを持って歩いていきますよね。その辺はどういう意味を監督として持たせたのでしょうか?

見里:エピローグの話ですね。エピローグの前にお母さんヤギはお父さんをスタンガンで攻撃して気絶させて子ヤギたちを救うんですが、2度も結局はオオカミの侵入を許してしまったということになるのでエピローグでは窓によりたくさんの板が貼られていたりドアのカギの数が増えていたりして、より監禁するようになって、罠を持っていたというのは新たなる訪問者を防ぐために、家の近くに罠を仕掛けたという意味です。これは見た人にも全く分からないかもしれませんが、実はこの構図のエンディングのシーンで、お母さんヤギが一度一本の木に隠れるのですが、木に隠れた後、また歩き出す時にはもう罠を持ってはいないので、家の近くに罠を仕掛けたということを意味して制作しました。
最後の方にヘリコプターの音が聞こえてくるんですが、それは実際にもう捜査ヘリとして人間の男の子とお父さんを探しているヘリを描いて、童話の世界から現実的な方に引っ張るような終わり方にしたいなと思っていて、その理由が今回のメッセージをファンタジーの、童話の世界の中だけに収めたくなかったからです。童話の世界では一見子ヤギたちを救出したという事でハッピーエンドを迎えていますが現実世界ではお母さんヤギは人間を殺していますし、子ども達を山のどこかの家に監禁しているということなので、そういった恐怖とかを伝えたかったので、そういった現実に戻すということでヘリコプターの音を入れました。



マイリトルゴート / My Little Goat - Trailer from Tomoki Misato on Vimeo.





最後にとても嬉しいお知らせです。
元ピクサーのアートディレクターで、あのトンコハウスの堤大介さんからお声がけいただき、大変ありがたいことに、「トンコハウス映画祭」で私の大学時代の卒業制作『あたしだけをみて』も参加させて頂きることになりました。(プログラムB「ピッグも夢見るコマ撮りアニメ」にて上映)
周りで上映される作品たちは、どれも有名なスタジオの作品だったり、アカデミー賞で話題になった作品ばかりです。素晴らしい作品たちに囲まれ、憧れのスタジオが開催する映画祭に参加できて光栄に思います。
「トンコハウス映画祭」は現在開催中です。EJアニメシアター新宿で5月26日まで上映されるので、是非お越しください!



見里朝希(『マイリトルゴート』監督)
1992年東京都生まれ。2016年、武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。2018年、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。『あたしだけをみて』(2016)や『マイリトルゴート』(2018)が、国内外の映画祭で多数の賞を受賞。NHK Eテレ「高校講座・美術Ⅰ」やNHK WORLD-JAPAN「Anime Supernova」などに出演。現在、フリーランスとして活動中。
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