花コリ2018名古屋会場『花咲く手紙』カン・ヒジン監督トーク録

上映&トークその1 カン・ヒジンの世界

済州島の海女にインタビューした『お婆の海』、脱北した女性の日常と思いを綴った『花咲く手紙』と、2作続けて心にしみるドキュメンタリー・アニメーションを発表したカン・ヒジン監督。韓国の民間信仰を紹介した最新作『お札の意味』も含め、その作品世界に迫ります。

日時 2018年8月4日(土)13:00 短編プログラム1上映終了後、開催

ゲスト:カン・ヒジン(『花咲く手紙』監督)
祥明大学校アニメーション学科卒。在学中よりインディ・アニフェストのリレー・アニメーションに参加。2012年、卒業作品として『お婆の海』をハン・アリョムと共同制作。2016年『花咲く手紙』、2018年『お札の意味』を発表。現在Teacup Studioを運営。フリーランスとしても活動中。

司会:大森晴加(愛知淑徳大学創造表現学部3年)
通訳(韓→日):田中恵美
通訳補助(日→韓):坂野まきほ(愛知淑徳大学交流文化学部3年)
映写:竹本有希(愛知淑徳大学交流文化学部1年)

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大森:短編プログラム1で上映された『花咲く手紙』についてお話を聞いた後、監督の制作された短編作品を2つ上映し、その後にそれについてのトークをしていきたいと思います。


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『花咲く手紙』
꽃피는 편지 / A Letter that Blooms Flowers
カン・ヒジン 강희진/2016/11:00/2D
脱北した20代の女性2人が韓国に定着していく姿を描いた、ドキュメンタリー・アニメーション。 

Director's note
韓国に定着していく中で生じる出来事への、20代の女性たちの視線を表現したかった。 



『花咲く手紙』について

大森:はじめに、『花咲く手紙』について伺います。この作品ではクムさん、ウンさんという2人の女性が登場します。2人と知り合った経緯を教えていただけますか?

カン:『花咲く手紙』はドキュメンタリ―映画祭から制作支援を受けて作った作品です。そこで出会った監督さんが紹介してくださったのが、34学校(셋넷학교)という学校の校長先生でした。34学校というのは、北朝鮮から脱北して来た人たちが南で定着できるように、一つのプロセスとして創作や公演活動をして、定着を助けるというプロジェクトをしているのですが、校長先生が学校の卒業生たちにEメールを送って、インタビューに参加できる人はいますか?と協力者を募った際に、クムさんとウンさんが受けてくれて、会えることになりました。

大森:34学校は脱北してきた青少年を支援する、オルタナティブな学校だと伺っています。韓国では、この学校はどのような目で見られていますか?


カン:韓国では一般的には関心を持たれていません。ですが、こういった活動に関心がある方々の間では少し有名です。この34学校というのが、インタビューをしたり、ドキュメンタリーを制作したり、創作活動をしたりなど、脱北者を対象としたスクールの中では非常に特別な活動をしている学校だからです。

大森:ありがとうございます。本日、カン・ヒジンさんは青少年脱北者支援学校についての資料を持ってきてくださっています。

カン:今、持っている本(1冊目)は、私が資料として買い求めた本なのですが、脱北した人たちが中国で放浪しながら生活している、そういう姿を撮った写真集です。

*『脱北者 彼らの話/탈북자 그들의 이야기』 チェ・スノ著 최순호
(観客に資料を回して見てもらう)


カン:こちらは、34学校に関係のある資料です。こちらはCDなんですが、脱北した人たちが自分たちの故郷、北朝鮮の地域で歌われていた童謡を南で思い出しながら自分たちで歌って収録したCDです。
確実に覚えてはいないんですが、作品に出て来たクムさんの歌声が、このCDの中にも入っていると思います。

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脱北青少年が歌う子ども時代の歌集『North Korean Refugee Students Their Childhood』
トーク録CD資料写真01hp
トーク録CD資料写真02hp



カン:最後にお見せするのが、2年前に北朝鮮から脱北してきた青年たちと南の人たちが34学校の主催で共同で公演活動をしたことがあります。脱北のプロセスや、南に来てから感じたことなどを、公演の形で表現したものです。毎年、さまざまな国で公演活動をやっています。こちらは、私がドイツの公演に同行して、その活動を記録したDVDを作りました。
日本でも彼らの公演ができればいいなと思って、宣伝の意味も兼ねて今回、このDVDを持ってきました。

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大森:ありがとうございます。カン・ヒジンさんは、『花咲く手紙』上映前の舞台挨拶で、先入観という言葉を使われていました。脱北した人々に向けられる、韓国での先入観について、もう少し具体的に教えていただけませんか?

カン:日本でも似たような感じかもしれませんが……。どんな風に北朝鮮からの脱北者の方を見ているか、お話できる方、今、いませんか?

大森:では私が。まず私たち日本人は、北朝鮮と聞くと、どうしても、貧しい国、というイメージを持ってしまうと思います。どのように貧しいかというと、経済的なものに加え、文化的な豊かさを国民が持てないというイメージです。文化的な豊かさとは、例えば、他国について深く知ったり、思想の幅を自由に広げたりすることなどです。
また日本はアメリカと同盟関係にあるためか、北朝鮮には、偏った言い方をしてしまうと、嫌な国、という印象も持ちやすいと感じます。日本国内には、そのような印象を持たせるニュースが多いな、とも私は思います。これらに対して、もし違う意見がある方がいらっしゃれば、おっしゃっていただきたいなと思いますが……。


カン:(日本語で)韓国も同じです。特に北朝鮮は共産主義の国ですよね、韓国のように自由主義という社会ではありませんが、映像にも出てきた通り、北朝鮮には自由はないけれども、代わりに競争がありません。日本も韓国もそうですが、学校のいじめの問題が深刻ですよね。インタビューをしながら、クムさんとウンさんが共通して話していたのが、学校そのものが非常に楽しくて、友達と仲良く暮らせる空間だった、という風にお話していました。聞いた中で、非常に珍しいなと思ったのが、思春期がなく、いじめがない、というお話でした。そういうことは、韓国の人はよく知らないけれど、北朝鮮で人々が感じていることなのかなぁと思いました。
なので、私が申し上げたいのは、もちろん韓国からの視点で観ている北朝鮮の姿もありますが、それとは違う切り口で観た北朝鮮の姿もあるのかな、と申し上げたいと思います。
北朝鮮から脱北して韓国に来ると、政府から定着支援金というものが出るのですが、一般の人達から、「私たちの税金を使って、なんでそんなお金を出すんだ」という不満の声がたくさん出てくるんですね。
そのような意見を除くと、特に脱北者について意見を持っている人はあまり少なく、関心そのものがないのです。
一つ、面白いと思ったのは、最近南北首脳会談がありましたが、それまでは北朝鮮に対して反感が非常に大きかったのですが、反感が非常に少なくなっているというのを、ネットなど見ていて感じます。これは私の個人的な考えですが、北朝鮮に感じていた反感というものが、今、北朝鮮の人達ではなくて、他の国からの難民に対して向けられていると思います。今、韓国にはイエメンからの難民とが、済州島に非常にたくさん来ているんですが(注)、彼らに対して、昔、脱北者に対して見られたような偏見や非難が非常に集中しているように思います。あくまで個人的な考えですけれども。

(注)イエメンからの難民は、2018年7月時点で約560人が済州島に滞在している。テロ支援国を除く180ヵ国の外国人がビザなしで済州島に30日間滞在できる、観光促進のための「ノービザ制度」を利用して入国した。

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大森:ありがとうございます。『花咲く手紙』には、最後に「離れ離れになった人々のために」という言葉が出てきます。そこに、今おっしゃった思いが込められているのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか?

カン:離れ離れになった人たちは、自分の意志ではなく自分たちの故郷を離れなければならなかったわけで、北朝鮮でも、シリアでもイエメンでも同じことが言えると思います。そういう風に故郷を離れなければならなかった人たちのことを考えたいと思って、その言葉を入れました。


『お婆の海』について

大森:ありがとうございます。それでは続きまして、短編のアニメーションを2つ上映させていただきます。『お婆の海』と『お札の意味』という作品です。チラシには『お守りの意味』と掲載されていますが、『お札の意味』に変更いたしました。

大森:『お婆の海』から質問させていただきます。先ほど、打ち合わせの最中に、『お婆の海』の取材では面白いことがあった、と伺いました。そのエピソードをここでお話ししていただけますか?

カン:忘れちゃった(笑)
『お婆の海』を作る過程で、取材で1ヵ月ほど、済州島に滞在しました。お金がなかったので、海女さんの家に居候しながら、サバを仕分けたり、食堂の配膳を手伝ったりしていました。制作が終わった後に、済州島が気に入って住みたくなり、作品を完成した後、3年ほど済州島に住んでいました。
済州島に海女の学校があるのですが、この作品に出てくるお婆さんは、海女学校の校長先生のお母さんなんです。作品の取材をしていた時は、潜水は勉強しなかったのですが、もう一度、済州島に住み始めた時、海女の学校に通って、卒業までしました。

(会場どよめく)

最後まで聞いてください(笑)。先ほど作品の中で、(海女の技術的な)レベルが上級、中級、下級に分れているという説明があったと思いますが、海女の学校の卒業生同士で話すことがあるのですが、下級にも入れない、本当に技術的にダメで使いものにならない海女がいて、それを「クソ級」と呼ぶんです。て、私はそのクソ級レベルでした(笑)。海に潜って、何かを捕って上がってこないといけないのですが、海の中に入って探すのも難しいですし、深く潜るのも難しいし、捕れたものと言えば、巻きグソ模様の小さいサザエしか捕れなくて…。なので、クソ級で。韓国語で「クソ」を「トン똥」というのですが、お金も「トン돈」というので、トン(お金)にならない…(笑)。
そういう風に実際に、海女の勉強をやってみると、インタビューの取材をする前に、潜水の訓練をしておいた方が良かったなと思いました。インタビューをした時に、的外れな質問をしてしまって、「潜っている時、どういうことを考えているんですか?」というような質問をしたんですが、実際にやってみると、潜っている時に何か考えているとか、全然ないんですね、とにかく、何か捕まえなきゃ!という思いだけで(笑)。(日本語で)なんか、バカみたいですね(笑)。ドキュメンタリーをやっている人は、一生懸命働いている人を見ると、つい、そんな変な質問をしてしまうんですね。実際に自分がやってみて、あ~バカな質問しちゃったな、と気が付きました(笑)。一生懸命働いている人というのは、何も考えないで、その仕事に集中しているものなんですよね。私も海の底で貝を捕りながら、そう思いました。


「Grandma Ocean」
『お婆の海』
済州島の海女たちに対するインタビューをアニメーション化した、ドキュメンタリーアニメーション。海女の仕事の厳しさや魅力、海を愛する女たちの素顔が垣間見られる、温かくもかわいらしい作品。第16回ソウル国際漫画アニメーション・フェスティバル(SICAF2012)ノンコンペ招待部門、インディ・フォーラム2012招待作品。



『お札の意味』について

大森:ありがとうございます。それでは最後に、『お札の意味』について質問させていただきます。この作品は、韓国のコンペティションに応募した作品です。そこで気になったのが、インディペンデント・アニメーションを生業とされているカン・ヒジンさんが、どのように生活費などを工面されているのかということで……。アニメーション制作には大変な労力が必要で、他のお仕事で工面するなどは難しいと思いますので。

カン:お金がありません(笑)

大森:(笑)。
よければ、コンペティションに『お札の意味』を応募するまでの経緯などを教えていただけませんか?

カン:『お札の意味』は『花咲く手紙』を作った後に、今度は韓国の「巫俗(ふぞく)/무속(ムソク)」を取材して、韓国の民間信仰をテーマにしたアニメーションを作ろうと思っていて、取材をしながら、試しに作ってみたものです。お札の会社の広告みたいに見えたというお話ですが、この作品はモーショングラフィックスの技法を使って表現していますが、この技法は、CMや何かを説明したり、プレゼンテーションをする時に使われる技法ですよね。こういう表現の仕方を練習しようと思って、練習も兼ねて作ってみて、公募展に応募したんですが、落選してしまいました。だからお金がありません(笑)。

『お札の意味/부적의 의미』フル動画(韓国語のみ)


大森:ありがとうございます。では最後に一つだけ、これからやっていきたいことがあれば教えてください。

カン:いろいろ話したいこともありますが、まず先ほど話した「巫俗(ふぞく)」、シャーマンについてのお話を作りたいのと、もう一つ、ベトナム戦争について、作りたいと思っています。ベトナム戦争には韓国も参戦していて、ベトナムの民間人を虐殺したりしたことがありました。それは知られていなかったのですが、日本の市民団体が、韓国にもこういうことがあったと知らせたわけなんです。資料の調査にも行きたいと思っているし。今、読んでいる本があるんですが、沖縄や韓国やフィリピンにいる駐留米軍についての本で、まだすぐには決まっていませんが、駐留米軍がいることによって被害にあっている、女性たちの物語を描いてみたいと思っています。先ほどのミーティングで、ドキュメンタリ―・アニメーションを作っている作家は、日本にはいないと聞いたのですが、どこかにそういう活動をされている方がいるかもしれないので、もしそういう方に会えれば、例えば駐留米軍の問題のように、沖縄についてどうやって作品を作っていけばいいか、または一緒に作ったり、話をしたりできればいいなと思っています。日本でも社会でいろいろな問題がありますが、そういうことをテーマにしている作家さんがいたら、作品を観たり、いろいろと話し合ってみたいなと思っています。

※トークで上映された『お婆の海』、『お札の意味』の字幕翻訳は、愛知淑徳大学字幕制作チーム(監修 三重野聖愛)のご協力のもと、制作されました。 
カン・ヒジン監督と、今回ボランティアとして参加してくださった、愛知淑徳大学の方々。
ご協力、ありがとうございました!
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