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花コリ2018東京会場『深心』キム・スンヒ監督 X 横田正夫氏トーク録

スペシャルトーク1:『深心』キム・スンヒ監督トーク

デビュー作『心鏡』(花コリ2016上映)以来、旺盛な制作活動を続けるキム・スンヒ監督。今回の上映作『深心』は、現実を象徴的に再構成した世界観と、距離を超えた人間同士の共感と希望をユニークに表現したことが高く評価され、「インディ・アニフェスト2017」一般部門優秀賞を受賞しました。
キム・スンヒ監督を韓国からゲストにお迎えし、その作品の内面世界を心理学者の横田正夫氏とともに伺いました。

2018年5月12日(土)19:20~短編プログラム3上映終了後
ゲスト:キム・スンヒ(『深心』監督)※日本語通訳あり
パネリスト: 横田正夫(医学博士、博士[心理学])
通訳:田中恵美、チェ・ユジン

横田正夫(以下、横田):日本大学の横田です。
今日、皆さんがご覧になった作品、最初は私は、『深心』を「しんしん」と読めなかったんですよね。「ふかごころ」と読むのか、「ふかいこころ」と読むのか、ちょっとよく分からなくて、実はその前は「たんしん」(“探”心)だと思っていて、そちらの方が日本語としては、いいのかな、と思っていました。
先ほど聞きましたら「しんしん」というのには深い意味があるらしいので、その辺のタイトルの意味を少し、最初に聞いてみたいと思います。


SimSim (The Realm of Deepest Knowing) Trailer from Seunghee Kim on Vimeo.


「深心 / 심심 / The Realm of Deepest Knowing」
2017/03:30/Pixilation, Drawing, Object
逆境の中で、ひとりの人間が、他人の内面の最も深いところへたどり着こうとする。
それは暗闇を照らす。彼らは一体感の中で、互いを満たしていく。



キム・スンヒ(以下、スンヒ):韓国語のタイトルの「심심(シムシム)」には、2つの意味があって、一つは심심하다(シムシマダ)といって「退屈する」という意味を表すものと、同時に「深い謝罪の念」というように「非常に深い思い」を表すものがあり、タイトルが一種の掛け言葉になっています。実はこの作品を作るときに、韓国語より英語のタイトル「The Realm of Deepest Knowing」を先に作っていて、その中の「Know」という単語にポイントを置いています。最初のコンセプトワードとして「深く知ることが愛することである」という意味で、タイトルを付けています。

横田:作品を観ると、2つのキューブが出てきて、2つのキューブがお互いに支え合うような関係になっていて、しかも片方のキューブが壊れたり、心の奥底に逃げ込んだりした時に、もう一つのキューブの手であったり、心臓であったりが助けに行くということになっています。「Knowing」という「知る」という行為そのものが「自分の心を知る」ということもあるようですが、「他者の心も知る」ということで、繋がっているという関係が描かれているように見えました。
その辺は基本的に個人的な体験に繋がりがあるそうなので、そういう作品が作られた背景をちょっとお聞きしてみたいと思います。

スンヒ:今、先生がおっしゃった通り、私の個人的な体験をもとにした作品になっています。実は、私が20代の時は非常に鬱の状態がひどくて、また社会と接することができないような精神状態で、外に出られないような時期を過ごしていました。その状態にあった時に、私をそこから助けてくださった人がいて、その方との繋がり、そこから私が感じた愛というものを表現してみたいと思いました。

180512GV_07hp.jpg

横田:第三者との出会いが作品の背景にある、ということですが、それと当時にお母さんとの関係も、かなり厳しい関係があったということで、それも作品の中に込められているということでした。その辺も少しご説明いただけると分かりやすくなるかと思います。

スンヒ:私は子どもの頃から、母親と2人だけで暮らしてきたのですが、母親にとって自分の感情を表現できる相手が自分しかいなくて、なので、母親がその感情をぶつけてくる時の激しさに自分が耐えられなくて、受け入れられませんでした。
ただ自分も成長していく中で、幼いころには聞かせてくれなかった自分の人生のことを少しずつ話してくれて、徐々に母親の心情を理解できるようになりました。また母親が大変精神的に辛い時期を過ごしていたことがありまして、私はその時期にずっと母親といたので、母親とぶつかりながら、彼女の愛情を深く知り、私の母親への愛情は、その時にやっと始まって、まだ間もないんです。「理解することが愛だ」というのは、その時から実感したことです。今、やっと母親を純粋に愛せるようになってきたのではないかと思います。

横田:その辺の母との関係が、中間ごとに出てくるキューブの中で、巨大な女性とそれにつかまれてしまう小さい女の子が登場してきたと思うんですが、そういう風に表れてきているようでした。

TheRealmofDeepestKnowing02.jpg

スンヒ:そうですね。作品の中には、母親への思いが根底にありますが、「深心」だけを見れば、自分の中にあるさまざまな姿のうちの一面です。

横田:その辺の話は、キューブの中に、もう一人の方の男性の心臓が投げ込まれて、その心臓が人間の姿になって、女の子の心の奥底まで走って行って、途中で巨大な手で凪払われようとしたり、潰されそうになりながらも、奥底にいる女の子のところに近づいていく、というところに、どうも表れていたように思えます。

スンヒ:その通りです!

横田:2人で出会った瞬間に目が合って、光輝いて、その瞬間に紙がくるくる捲れていくような場面展開するということで、心の奥底から離れて現実世界に戻ってくる、というような、新しい関係が現実の中で作り上げられていく、というような構成になっていたと思います。

スンヒ:その通りです!(笑)

横田:なので、心の奥底だけの問題じゃなくて、現実世界で社会的に適応できていく、というプロセスとして考えると、心の成長過程がそのまま出ているようにも感じられました。

スンヒ:その通りです(笑)。
この作品を作る時の最初の段階は、先ほどお話ししたように個人的なことを見つめるところから始まっていますが、最後は自分が作業をしている間に考え方が幅広くなってきまして、最後の部分で石がたくさん現れるところがありますが、そこはまさに自分だけの話ではなくて、世界を見つめる目線から、人々の営むところを見ている、というような、そういう視点を加えていますので、そこまで解釈されてもいいと思います。

横田:多くのアニメーションは、例えば、恋愛関係が完成したらそこで終わり、ということになると思うんですが、この作品は、そこで終わらないで、何回も何回も押しつぶされて、巨大な手に押しつぶされて、それでも立ち直り、押しつぶされても立ち直り、という立ち直りが繰返し繰り返し、しつこいくらい繰り返されているというところが多くの特徴だと思いました。

スンヒ:恋愛感情というよりも、「愛」というのは、単に恋愛をしている時にだけ使う単語でもありませんよね。ですので、単純に男女間の愛の話というよりは、私たちが世の中を生きていく時に、人と人の間で交わされるいろいろな愛の形の、そのことを表現しているという風に、広くとらえていただけるといいと思います。
もちろん私も人生の中で、私自身も昔も今もそうですが、皆さんも愛しながらも苦しい経験がたくさんあると思いますけれども、そんな時期を一緒に過ごしてくれる人がいると思います。世の中のあらゆる人が、そうやって愛し合いながら生きているのではないか、その思いを表現している場面です。

横田:一番最後のところで、石がごちゃごちゃっと一つの塊になってしまいましたが、その結末についてちょっと説明していただくと、その点がもっと明らかになるかなと思います。

スンヒ:先ほど、感覚が拡張して、視点が広がったという話をしましたが、実は私は宗教を信じていて、キリスト教なんですが、常に神や魂等のそういった観点を入れているんですね。もともと神様というのは、よく空の上にいると考えられていますが、神様が私たち人類を観る時に、人が苦しくとも互いに愛し合っているようすが、空にある星のようにキラキラ見えるのではないかと思いまして、その感じをたくさんの石で表現してみました。また最後にその二つの石が結びつくというような場面になるところについては、たくさんキラキラと輝いている星の一つ一つが、一つの愛の形であり、私たちが、たくさんの人達が集まって愛し合って生きていくということが、誰かと誰かも愛の一つの形である、ということを表現したいと思いました。

横田:今の話をさっき実は聞いてたんで、敢えて話してもらったんですが、今のお話を受けて、一番最初に巨大な手が出てきますが、その巨大な手を私は最初は、社会が個人を制圧している、制約している、規制しているという風に捉えて観てたんですが、もちろんそういう捉え方も可能だと思うんですが、監督はちょっと違った考え方で作られていたそうなので、その辺をちょっと説明をお願いできればと思います。

スンヒ:あの、話が真面目すぎて面白くないってことはありませんか?(笑)

横田:そりゃあ、そうだよね(笑)

180512GV_04hp.jpg

スンヒ:本当は、私、そんなに面白くない人間じゃないんですよ(笑)
手のことがお話に出たので、ちょっと説明しますが、作品の中で手がいろいろとやってくるというのは、神の手を意識していて、例えば、神の手によっていろいろと妨害を受けたりするわけですが、私はそれは自分の人生の中で辛いことがあった時には、それは神様の計画の中にあることなのだという風に思ったりもします。何か辛いことにあったり試練にあったりするということは、神様が私を、これではいけない、もっと良い人間にならなければ、という風に、そういった試練を与えてくださっているのだ、そういう風に考えています。そういった、人生の中の試練を神が与えているのではないか、ということをあの手で表現しています。

TheRealmofDeepestKnowing03.jpg

横田:私はあまり神様を信じてないので(笑)その話を聞いた時に、ちょっと驚きました。正直な話。
そういう意味での魂とかソウルとか考えたことがなかったので、そういう考えを持っている人も当然いるだろうとは思いましたけど、作品の中にそういう考えが投影されているということを始めて知りました。それは新鮮な体験でした。
それと同じようにキューブの男の人がでてきて、最初に「手」を飛ばしていきますけど、その「手」は女の子に対する援助の「手」のようなんですが、最初はうまくいかないですよね。

スンヒ:全くご覧になった通りです。
「誰かを助けようとする小さな手」という意味です。
困っている人をみて、最初からいきなり全力で助けに行く人ってあまりいないと思うんですが。

横田:全力で助けに行くときに、心臓を投げますよね。でも投げた後に自分の身体が壊れちゃいましたよね。そこまで壊れる危険性があるということが、そこに表れているけど、監督としてはその後に復元する、という力を信じているという風に説明して、先ほど触れていました。

スンヒ:確かにこの話というのは、実際の私の体験をかなり投影していまして、私が辛い目に遭っている時に助けてくれた方というのは、内面が非常に強い方で、私を助けようと決意した時に、私を助けようとしても、それでも崩れない強い心を備えていた方なのです。

横田:普通そういう状態にあると、ちょっと倒れちゃうような気がするんですが、倒れない人がいたと。

スンヒ:それが「愛」なんです。

横田:ありがとうございます。
今日、見ていただいた『深心』の前の作品が『心鏡』(花コリ2016で上映)なんですね。『心鏡』という作品は、これより前に作られているので、もっと個人的な作品になっていて、心の内面を自分自身が見つめてしまって、崩れてしまって、骨になって消えちゃうみたいな作品になっていました。
そこで孤立した状態を描いた後で、今回の作品のようなキューブが2つ出てくるとか、2人で手をつないで走るとか、話になっていますので、心の奥底を見つめた後で、2人の関係が成り立つという、作品を連続して、連続性を考えると、すごい発展があっているように見えますし、この作品自体は、心のつながりで成長していくという、成長物語になっているように見えるので、作品を連続的にもし観られる方がいたら、もう少し興味深く今回の作品を観られたのかな、と思いました。

TheRealmofDeepestKnowing04.jpg


スンヒ:非常に私の作品をよく見てくださって、ありがとうございます。『心鏡』はvimeoで観られます。
確かに2つの作品は、非常に連続的な意味がありますし、私はアニメーションというのを自分自身のために作っています。自分がより良い人間になるためのプロセスだと思って作業に取り組んでいます。観てくださる皆さんには大変申し訳ないんですが、作っている時には、これきっとこうしたら皆さんがよく見てくださるだろう、とかそういうことは全然関係なくて、本当に自分の思うままに作っているんです。
『心鏡』を作った時も、本当に自分自身がバラバラになって、ダメになっている時で、そういった自分の状態を認識する時間が必要で、そのためのツールとしてアニメーションを制作しました。
『心鏡』を作り終えた後に、少し心に余裕が出てきまして、自分の側にいる人との関係についても表現をしていきたいと思って、作品を作っていきました。それは自分の母親との関係を見つめるというプロセスとしてもあったように思います。

『心鏡』全編

Mirror in Mind (SimGyeong) from Seunghee Kim on Vimeo.


「心鏡/심경/Mirror in Mind」2014/02:04/2D
ある女が、自分の心の中をのぞき見る。張りつめた糸の上で、自分の理想を追う。
彼女は、不完全な感情のかけらが集まって、自分が完成されていくプロセスを見つめる。

Director's note
不完全なことこそが、実は完全なことなのではないだろうか。
私たちは、不完全な価値観と考えがぶつかり合いながら作り上げられた、完全な存在なのだ。
そのことを表現し、伝えてみたかった。 



横田:今、次の作品を準備しているとのことで、最後にそれをご紹介していただいて、来年完成予定だそうですが。

スンヒ:私はドキュメンタリーに非常に関心がありまして、特に女性に関する問題に興味があるんですが、まだ立派な人間でもないので、自分の身の回りの物語から始めてみようと思っています。私の母親は、いわゆるシングルマザーとして私を育ててきてくださったわけですが、60年代から現在に至るまで、母親一人で子どもを育てるということは韓国の社会の中で非常に大変なことだったんです。女性が経験してきている困難は、私が子供だった30年前から現在に至っても、そういった女性の困難や苦しみというのは未だにずっと存在しているんですね。
片親家庭というのは、親だけでなく子供も偏見にさらされるということがあるわけで、これまでの伝統的な家族のあり方といのは、本当に理想的だったのか、というのを、今、見直す時代にきていると思うのです。そういうことを含めた形での家族や女性についてのドキュメンタリーというのを作っていこうと思っています。

キム・スンヒ監督の手掛けた第18回ソウル国際女性映画祭(2016)の公式トレーラー

Seoul International Women's Film Festival 2016 Trailer from Seunghee Kim on Vimeo.



横田:どうもありがとうございました。貴重な話をお聞きすることができたと思います。


キム・スンヒ(『深心』監督)
自主制作でアニメーションと音楽を作っている。デビュー作の『心鏡』(2014)はアヌシー国際アニメーション映画祭(仏)やスラムダンス映画祭(米)を含めた約70か国の国際映画祭で紹介され、多くの賞を受賞した。2016年には、第18回ソウル国際女性映画祭公式トレーラー『Women make good films』を制作、2017年には、2作目となる短編作品『深心』が、同年4月に開催されたフロリダ映画祭(米)でワールドプレミアとして上映され、現在約50か国の国際映画祭で紹介されている。2018年1月に韓国で公開する、女性のナプキンに関する長編ドキュメンタリー『血の連隊旗(仮)피의 연대기(For Vagina's Sake)』のアニメーションパートを制作した。
長編ドキュメンタリー『血の連隊旗(仮)피의 연대기(For Vagina's Sake)』トレーラー

横田正夫(医学博士、博士[心理学])
日本大学教授(映像心理学・臨床心理学)。日本アニメーション学会元会長。公益社団法人日本心理学会理事長。アニメーションについての心理学的研究を行う。アニメーション関連の著書に『日韓アニメーションの心理分析』臨川書店(2009)、「大ヒットアニメで語る心理学‐「感情の谷」から解き明かす日本アニメの特質」新曜社(2017)などがある。
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tag : トーク録 花コリ

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