花コリ2017名古屋会場アジアコンペコーディネーター イ・ギョンファ氏トーク録

アジア短編プログラム「アジア路」の上映作は、韓国のアニメーション映画祭「インディ・アニフェスト」のアジアコンペ部門「アジア路」で入選した作品から選定されています。ハイクオリティな作品が勢揃いした同部門で、プログラム・コーディネーターを務めたイ・ギョンファさんをお招きして、アジア部門設立の趣旨や今後の展望などを語っていただきました。

6月10日(土)18:20のアジア短編プログラム「アジア路」上映終了後
ゲスト:イ・ギョンファ(「インディ・アニフェスト」プログラム・コーディネーター)
司会:西村嘉夫(シネマコリア代表)
通訳:田中恵美


イ:「インディ・アニフェスト」で、アジアコンペ部門「アジア路」のプログラム・コーディネーターを担当しているイ・ギョンファです。

西村:インディ・アニフェストは、もともと韓国の作品のみを対象にコンペティション部門を開いていましたね。どういったきっかけで、アジアコンペ部門を始めたのか教えてください。

イ:インディ・アニフェストは、韓国のインディーズ・アニメーション監督たちがその運営に参画する韓国インディペンデント・アニメーション協会(KIAFA)が始めた、コンペティション形式の映画祭です。2005年の第1回から、コンペティション部門は韓国の作品のみを対象としていましたが、招待上映では海外の作品を紹介し続けています。昨年で12回目となりましたが、これまで韓国国内のコンペ部門の基礎をしっかりと作ることができました。2008年から、日本巡回上映となる「花開くコリア・アニメーション(略称 花コリ)」を東京から始めて、現在、大阪と名古屋でも開催しており、今年、東京は10回目を迎えました。日本との交流も基礎をしっかりと築くことができています。これまで10年間やってきたことを土台にし、映画祭で培ってきた韓国のインディーズ精神、独立精神、また作品制作への情熱を、今度はアジア全体に広げていきたいと思い、アジア部門を新たに設けることにしました。

西村:なぜ、アジアに限定したのでしょうか? 韓国で一番大きな映画祭というと釜山国際映画祭ですが、釜山映画祭も「アジア映画のための映画祭」を標榜していますね。

イ:これまで10年以上映画祭を続けてきましたが、国内に限っていたのは、他の韓国国内の映画祭では、さまざまな対象が取り上げられているので、私たちは韓国国内の作品に集中して、そこを深く追求するような映画祭にしていこうという意図からです。映画祭の範囲を拡張する際にも、他の地域にまで広げすぎてしまうと、集中することに重きをおけなくなってしまうので、アジアまでという範囲にして、アジアを深く掘り下げていこうと決まりました。

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西村:実際に、どういった国からどれくらいの応募があったのでしょうか?

イ:最初、「アジア路」を開こうと決めた時に、目標としていた応募数は200本でした。ところが、実際に応募数を集計してみると、315本になりました。私たちが予想していたより多くの関心が集まったことと、こうしたコンペに多くの需要があったことが分かりました。特に多かったのが日本からで、計94本出品されました。日本は量でアピールするような国ではないので、10年間関係を築き上げてきたことが、この結果として表れたのだろうと考えています。次に多かったのが中国で37本、台湾33本、イラン33本でした。中国や台湾・日本は同じ漢字文化圏としてお互いに交流もあり、通じ合っている部分が多いので、このように本数が伸びたのではないかと思います。驚いたのは、イランと、その次にインドの出品数が多かったことです。両国は普段(インディ・アニフェストと)交流があまりないのですが、アニメーション産業が発達している国であり、それが個人の作品制作にもつながっているのではないかと思いました。

西村:インディ・アニフェストで上映して、観客の反応はいかがでしたか?

イ:私はSICAF(ソウル国際マンガ・アニメーション映画祭)という大きな映画祭の映画祭チーム長として長年働いていたのですが、SICAFではアジアだけでなく、全世界の作品を対象にしたコンペをやっています。SICAFでアジアだけのプログラムを上映したことがあったのですが、反応は良くありませんでした。しかし、今回インディ・アニフェストでアジア作品のプログラムを上映したところ、韓国作品だけのプログラムにも劣らずたくさんの方が来てくださり、非常に多くの関心が集まっていることがわかりました(*)。
インディ・アニフェストで「アジア路」の上映計画を作った際には、入選作を2プログラム分上映するはずでしたが、あまりにも作品が多かったので急きょ上映作品を増やし、3プログラムで構成することになりました。
観客の具体的な反応としては、昨年ある大学で講義を通訳する仕事をしたのですが、その時に、学生から、作品がものすごく暗いものが多いので、アジアの現実は本当に暗いんだなぁという声がありました。もちろん、決して全部の作品が暗い作品わけではありませんが、印象深かった作品に暗い内容のものが多くて、このような感想になったのではないかと思います。
(*) 花コリでも「アジア路」の観客数は韓国短編と変わりませんでした。

西村:韓国の作品も、負けず劣らず暗いなあと感じます(会場笑)。今回ですと、短編プログラム2には本当にヘビーな作品が多くて、観終わった後にぐったりする感じでした。日本人から見ると、韓国のアニメーションは社会問題に切り込んだ作品が多いイメージがあります。今回の「アジア路」も政治的な題材を扱っている作品が多いのですが、それが韓国のお客さんとうまくマッチングして、高く評価されたのではないかと思いました。

イ:そういうことになると、予選審査委員の求めているものとマッチングしたのかもしれません。

西村:もともとヘビーな作品が多かったのでしょうか? それとも選定の過程で、こういう作品が勝ち残っていったのでしょうか?

イ:決して全部の作品が暗かったわけではないと思います。ただ、予選を通過できるような質の高い作品の中に、そういう内容の暗いものが多かったのではないかと思います。
政治的、または社会的なテーマを取り上げる作品や、人間の痛みや苦しみを表現しようとするとき、より切実な思いを持って一生懸命作品を作るのではないか、と思うこともあります。

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西村:今回、アジア枠という募集でしたが、実はいろいろな国の人たちと合作した作品も多いし、留学生が作った作品も、非常に多いと聞きました。

イ:それは、ある国の人とある国の人が合作したというよりも、アジアの各国から他の国に留学をして勉強しながら作品を制作したり、アジアの他の国で働きながら作品を制作したりして、自然と2つの国、またはそれ以上の国の人が参加して作るような作品が、出てきたのだと思います。さきほど中国と台湾の作品が多かったと言いましたが、両方とも外国に留学していたり、外国で働きながら制作した作品も多かったです。

西村:ひょっとして、留学生の作品が多いということが、社会問題を扱う作品が多いことにつながっている部分もあるのでしょうか? 海外に行ったからこそ分かる自分の国の問題点、それをアニメーションにしようというような。

イ:そうではないと思います。今回日本では上映されませんでしたが、昨年インディ・アニフェストで上映した中国からの応募作品の中に、中国のアニメーション教育を批判した作品がありました。中国から海外に出た人が作ったわけではなく、中国で学んでいる人が中国の中にいながら制作したものです。今回、中国に関して気付いたことは、以前はは中国に作品募集をかけると、学校単位で100本、200本と送ってきて、量で圧倒するような印象があったのですが、今回のインディ・アニフェストでは、そういった団体送ってきたのではなく、アニメーションを専攻したわけでもなく、独学でアニメーションを学んで作った作品を応募したケース、あるいは海外で働きながら作った作品を応募してきたケースが非常に多かったです。

西村:昨年のインディ・アニフェストで、アジアの国々からゲストを呼んでシンポジウムが開かれたとのことですが、どういった内容が話し合われたのでしょうか?

イ:アジアのコンペティションをするのも初めてで、シンポジウムという形でアジアのインディーズアニメーションについて話すことも初めての機会でした。なので、アジア各国のインディーズアニメーションの現状、またこれからのインディーズアニメーションについて、お互いに協力し発展するためには映画祭がどんな役割をしていくべきかを話し合いました。韓国の発表者はインディ・アニフェスト執行委員長のナ・ギヨン会長、台湾からは關渡國際動畫節(KuanDu International Animation Festival(KDIAF) という映画祭でディレクターを務める史明辉[文字化け直してください]氏が台湾の事情について発表し、日本からは心理学博士の横田正夫氏が発表しました。シンポジウムには、「アジア路」にノミネートされた監督が、イランから1人、中国から2人が参加しました。中国の監督のうち1人は、多摩美術大学でアニメーションを勉強されている方です。

<インディ・アニフェスト2016 シンポジウムの様子>
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西村:「アジア路」について、今後の展望をお聞かせください。

イ:現在、今年の「アジア路」の作品を受け付けています。応募期間は5月22日から6月19日までですが、去年より早く受付を始めたところ、すでにたくさんの作品が届いています。先週、台湾に行ってきたのですが、今年は台湾の学校がたくさん応募してくれそうなので、国別地域別の応募総数の順位が変わると思います(笑)。また、昨年「アジア路」の大賞を受賞した、インドの『イメージをつくる』のニーナ・サブナニ監督が、今年のインディ・アニフェストに本選審査委員として参加することになりました。
私たちが願うのは、作品を通してさまざまな国や地域の事情や考え方を知るだけでなく、作品を作った監督たちを映画祭に招待し、映画祭を通じて交流していく機会を末長く維持し、地域間の関係を広げていくことです。去年は、コンペに応募してきた方々と出会い、絆を深めることができました。また今年も、新しい作品を通して新たな人に出会うことから、インディーズアニメーションの世界でアジアの交流を定着させ、発展させていきたいと思っています。

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「イメージをつくる/We Make Images」
ニーナ・サブナニ Nina SABNANI /2016/08:51/2D、カットアウト/インド
この作品は、インドのマディヤ・プラデーシュ州に暮らすビール族の起源神話を解釈したアニメーションである。ビール族にとって絵は祈祷と同じもので、作品を観るとその理由が分かる。この作品は、現地の土着芸術家Sher Singhと映画監督のNina SABNANIが、共に物語の表現を探求した、コラボレーション作品である。


<質疑応答>

質問者1:『Seoul & Animator』という冊子を出版されていますが、日韓英の3か国語で記事を掲載しているのはなぜですか?

イ:私は長年、国際映画祭の仕事を手がけてきました。他の国のアニメーションの情報を入手しようと思うと、英語化されているものは比較的簡単に調べられるのですが、英語ではない、その地域の言語で書かれた情報は非常に手に入れにくいですし、接することも難しいです。逆に韓国の作品についての情報でも、他の国の人から見ると同じような状態ではないかと思いました。そこで、韓国のアニメーション作家について紹介する本を作るにあたっては、まず英語と韓国語で表記する必要があると思いました。本を作る前に、出版や編集に関する講座で勉強したのですが、その時に指導してくださった先生が、こういう同人誌というかリトルプレスなどを作って流通させようとするときは、日本ではリトルプレス系の本が紹介される機会が非常に多いので、できれば日本語を入れた方がいいとアドバイスをいただきました。私の身近に、アニメーションの活動している日本人の友人も数名いますので、その人たちに手伝ってもらって、まず第1号を発行しました。第2号から現在の第5号までは、三宅敦子さん(花コリ東京事務局スタッフ)が日本語の翻訳を手伝ってくださっています。三宅さんのおかげで、日本語のテキストが掲載できました。

『Seoul & Animator vol.2』チョン・ユミ&パク・ジヨン特集
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西村:ご紹介が遅れましたが、イ・ギョンファさんはアニメーションの監督もされていて、花開くコリア・アニメーションでも2013年に『アンダーグラウンド』という作品を上映し、大阪会場のゲストとしてお招きしました。作品制作の傍ら、いろいろな映画祭に携わりつつ、韓国のアニメーション作家を紹介するため」『Seoul & Animator』という冊子を出版されています。韓国語と英語と日本語で書かれていて、1冊の中に2人ずつ、作家の特集記事を掲載しています。最新号では、今回プログラム1で上映した『空き部屋』のチョン・ダヒ監督と、プログラム3で上映した『えさ』のキム・ボヨン監督の2人を特集していますが、大変申し訳ありません、売り切れてしまいました。他の号はまだありますので、ぜひ手に取ってご覧になってください。ものすごく面白い本です。

『Seoul & Animator vol.5』チョン・ダヒ&キム・ボヨン特集
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イ:(日本語で)よろしくおねがいいたします(笑)。

西村:実は日本語もおできになるんです

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「アンダーグラウンド/언더그라운드/UNDERGROUND」2012/6:30
ハイヒールを履いた若い女性が地下鉄に乗る。足を痛めた彼女は座席に座るが、周りの乗客の態度に苛立ちを感じる。そんな中、満員の車内で一人の男が騒ぎを起こすが…。

Director's note
私たちは必ずどこかで関わり合っている。他人と比較し競う代わりに、お互いが温かな視線で見つめ合えれば、より良い世の中になるのではなかろうか。



質問者2:インディ・アニフェストのような映画祭で、さまざまな作品をご覧になってきたと思いますが、交流を通してお互いに影響がみられるようなことがあれば、具体例を聞かせていただきたいと思います。

イ:インディ・アニフェストに関していえば、「アジア路」は今年まだ2回目なので、もしお互い影響を与え合ったとしても、作品に影響が出てくるまでには、もう少し時間がかかると思います。ある作品を通じて、他の作品に影響が広がるということは、個人的にはまだ経験がありませんし、なかなかそれは簡単に起きることではないと思います。ただ、アジアの作品をたくさん見ていると、日本の大衆文化の影響を受けているのが分かるときもあります。今回の「アジア路」で上映したインドの『Schirkoa』の中にも、日本の街角の看板のイメージなどが、街のイメージとして挿入されたりしています。中国や東南アジアの作品を観ていると、子どものころに日本のアニメーションに触れた経験が作品の中に出ているな、と思う部分もあります。映画祭を通してのみ、影響力が行ったり来たりすることは、なかなか難しいと思います。映画やニュースやドラマといったマスメディアを通して、影響を受け合うということはあると思います。

西村:今回、インディ・アニフェストがアジアプログラムを新設したことで、韓国の皆さんが想像もしなかったであろう成果があがりました。それは、名古屋でアジアの短編アニメーションがこんなにたくさん一気に観られるようになったことです。地方都市ですと、日本と中国の作品を観る機会はあると思うんですが、インドやイランの作品が観られる機会はなかなかありません。インディ・アニフェストのおかげで、名古屋の観客もアジアの短編アニメーションを楽しませていただいてます。お帰りになられましたら、韓国のスタッフの皆さんによろしくお伝えください。

イ:インディ・アニフェストの「アジア路」アジアコンペを通してでは、思いもしなかったような国から作品がきて、そこでまたそこから新しい出会いが生まれあったりもしました。インディ・アニフェストのアジアコンペを通じてこれからも「アジア路」を通じて、アジアのインディーズ・アニメーションの交流の輪を広げていければと思います。


イ・ギョンファ(映画祭プログラム・コーディネーター)
アニメーション作家。代表作に『アンダーグラウンド』(2012)がある。ソウル国際漫画アニメーション・フェスティバル(SICAF)で映画祭業務を担当。韓国のアニメーション監督を紹介する韓日英語による多言語専門誌『Seoul & Animator』出版。インディ・アニフェスト2016でアジアコンペ部門「アジア路」プログラム・コーディネーターを務める。
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