花コリ2017名古屋会場『ジオット』ホ・ジュンソク監督トーク録

トークその1 ホ・ジュンソク監督トーク

6月10日(土)16:20 短編プログラム2上映終了後
ゲスト:ホ・ジュンソク(『ジオット』監督)
司会:西村嘉夫(シネマコリア代表)
通訳:田中恵美

ホ・ジュンソク(『ジオット』監督)
1977年、ソウル生まれ。桂園造形芸術大学アニメーション学科卒。『こんにちは、クロベさん』(2006)、『いつでも返品してください』(2010)を演出。『ジオット』(2016)は、ソウル独立映画祭、ミジャンセン短編映画祭などで上映され好評を博す。bean studios所属。フリーランスのアニメーション監督としても活動中。

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「ジオット/지오토/Giotto」2016/24:59/パペット、実写
ひとりの男とライオンの人形が、恋に落ちる。しかし、幸せな瞬間もつかの間。男はライオンと別れる。髪の毛が長いからメスだと男が思っていたライオンは、たてがみの長いオスだったからだ。しかし二人は、互いに相手を忘れられない。

Director's note
愛を「性器中心的」に捉えることが、どれほど滑稽なことなのか、表現してみたかった。


西村:大変独特な作品で、皆さん、お聞きになりたいことがおありかと思います。早速、お客様から質問を募らせていただきます。

質問者1:タイトルの『ジオット』というのはどういう意味で作られたのですか? ハレー彗星に最接近した探査機「ジオット」と関係があるのですか?

ホ:『ジオット』は韓国語の掛詞になるのですが、「ジオット」という単語を「ピザピザピザ」みたいに早口で10回くらい言うと「ジョッ좆」に聞こえて、人の性器を表す言葉になるんですね。

質問者2:大変面白く見ました。ジオットの人形アニメーションの部分と役者の演技の部分を交互に演出されていて大変面白かったです。実写パートのキャスティングが重要だったと思うのですが、どのような経緯でされたのでしょうか?

ホ:キャスティングの話をする前に、この作品の全体の予算の話をしますと、人形制作だけで50万ウォン、だいたい5万円ぐらいかかったのですが、ほぼそれが全部でした。そのため、出演している人々は、皆、私の家族です。主人公のジェグン氏は義理の兄で、サッカーのコーチは義理の兄の友達で、間に出てくるエキストラの女性は僕の実の姉です。なので、お金でキャスティングしたというよりは、家族の情に訴えて出てもらったことになります。

質問者2:プロの役者さんかと思いました。

ホ:実は義理の兄は本当に俳優なんです。名前は主人公と同じイ・ジェグンといって、主にミュージカルの舞台で活動しています。義理の兄に、今回日本で上映して、日本の皆さんが楽しんで観てくれたことを伝えたら、とても喜んでくれると思います。

質問者3:韓国の人形アニメーション(作家が制作参加している作品)というと日本人に馴染みがあるのが、中村誠監督がリメークした『チェブラーシカ』と、あと最近作られた『ちえりとチェリー』だと思うんですが、韓国の人形アニメーション界って、どれくらいの規模で、どんなスタジオがあるのか、また、普段はどのような作品を作っているのでしょうか?

ホ:今、おっしゃった作品は、すべて私も制作に参加している作品です。私が最初に活動していた会社が、まさにその2本の作品を制作していた会社です。日本のアニメーション業界に比べたら韓国のアニメーション業界というのは規模も非常に小さいですし、またその中でもストップモーションというのは、よりマイナーな業界であるとみていただいていいと思います。CMなどで視覚的に目につくよう、ストップモーション的な表現をしたいという依頼で作られる単発ものの作品もありますが、それが長編になったり、シリーズになったりするまでにはなかなかなりにくい。とはいえ、皆、一生懸命頑張っています。

質問者4:実写とストップモーションを組み合わせた、疑似ドキュメンタリーになっていますが、そういう作品を作ろうというアイデアを、始めから持っていたのでしょうか?

ホ:正直に言うと、最初はドキュメンタリーにするつもりはありませんでした。自分が仕事で、20cmくらいの人形をたくさん扱って来たのですが、ちょっと大きい人形を作りたいという欲が出てきて、1mくらいで作っちゃいたいなと思い、1回作ってみて、完成した時に、よし、設計通りにできたかな~と思ってみたら、人形が立ちもしなかったんです(笑)。そこで一度、挫折をし、既に人形は作ってしまった。予算は全部使ってしまった。人形は立ちもしない…。それでも撮らないといけないから、ちょっと悩み、座らせた状態で撮影しよう、と。座らせた状態のためにはインタビュー形式で撮ればいいんだと思いました。それでドキュメンタリー形式になって、結果的に言えば自分がやろうと思っていた表現よりもぜんぜん良くなったので、最初に挫折したことも良かったと思います。
アニメーションは非常にファンタジックで非現実的な表現ができるものでして、逆にドキュメンタリーというのは現実的でリアリティーのある表現になるのですが、その2つを組み合わせたらどうなるかという、その相乗効果について、作品を作りながら学ぶところが多かったと思います。もしストップモーションを目指している方で、作った人形が立たなかったとしても希望を失わずに制作していただければと思います。

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―メイキング映像を上映―

西村:最後にコマ撮りをしている様子がありましたが、この作品は最初に声を録音して、それに合わせて撮影をしていったのでしょうか?

ホ:アニメーションの場合、先に録音してそれに合わせて制作するというケースが多いのですが、この作品は特に台詞が非常に多かったので、先に台詞を録音してから、撮影しました。サウンドの方は、地下室にある自分のスタジオでスマートフォンで録音しました。映像と合わせて編集したところ、地下室で録音したので、ハウリングがすごく響いてしまって外で話しているようには聞こえず、先に録音したものが気に入らなくて、もう一度、台詞を録りなおしました。なので、リップシンクが少し合ってないところがあるかもしれません。

西村:ちなみに、ジオットの声はどなたがされているのでしょうか?

ホ:私です(笑)。

西村:独特な英語訛りの韓国語には、どういった意味があるのでしょうか?

ホ:韓国では朝鮮戦争以降、アメリカという存在が非常に大きくて、アメリカは自分たちを助けてくれたという意識があり、非常にアメリカを重視する傾向が強かった時期があります。今の若い人はそうでもないんですが、お年を召した方々は、言葉の合間に英語を挟んだりすると、この人インテリなんだと、いいように思ったりします。本来、言葉を使うということは、その人の知的レベルとは直接関係ないことではあるのですが、そうは言っても英語を使うと見かけだけはインテリに見える、つまり知的な人間に見える、若干、虚勢を張っている人をちょっと皮肉っているような表現でもあります。

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質問者5:今回の作品の中にあった、同性愛者のテーマですが、そのテーマを扱おうと思ったのはどのタイミングなんでしょうか?最初からあったのか、それとも人形が立たないからドキュメンタリー形式にしようとした時なのか。

ホ:人形が立つ、立たない以前にテーマは決まっていました。同性愛の問題は、今の韓国社会の矛盾や対立が表面化しやすい、直接激突しやすい問題なんですね。例えば、保守的な人と進歩的な考え方の人、あるいは若い人と年を取った人、それがデモなどの形で非常に分かりやすく表面化して、ぶつかりあっている状況があるので、むしろ同性愛そのものというよりは、同性愛を通じて、今の社会の矛盾している点、あるいは対立やぶつかり合っている要素というものが問題であるということを表現しようと思っています。私としては、同性愛に反対というのは話にもならないことです。ある人に対して何か感情を抱くことはあると思いますが、その人の存在自体を否定するということは、全く論理的でないと思います。しかも今、韓国ではご存じの通り政権が変わって、進歩系が割と大きなキャスティングボードを握るようになりましたが、そういう人達の中でも、同性愛は反対だという発言をする方までいるぐらいです。論理的でないことが通用してしまう、そんなおかしな社会を、非論理的な笑いで表現したかったのです。
この作品を作る時は、海外で上映することを全く考えていなかったので、韓国式ユーモアで表現しており、韓国の人達に見せることを前提に作っていたので、こうして海外の方がたくさん見てくださり、しかも楽しく見ていただき、質問もたくさんしていただき、私の話を大変よく聞いてくださり、本当にありがたく思っています。

『ジオット』トレーラー


■居酒屋トークより■

<制作期間について>

ジオットは、実写部分は2日半で撮り終わったが、人形のコマ撮り部分は1ヵ月くらいかかった。屋外撮影だったので、光の変化が影響しないようにするためには夜に撮らざるを得ず、そのため、ジオットが夜に出没するという設定になった。夜10時から朝5時まで撮影し、日中は寝ているという生活を1ヵ月くらいやっていた。その間、働いていなかったので、奥さんが一生懸命働いてくれた。制作することを許可してくれた奥さんに感謝しているとのこと。
ジオットの人形の皮の部分は羊毛フェルトで、監督のお母さんが作ってくれたのだが、内容が内容だけに、最後まで映像を見せなかった。しかし、お母さんがミジャンセン映画祭に見に来てしまった。見終わった後、お互い、内容については深く話さなかったという(笑)。
全州映画祭でも『ジオット』が上映され、その際、全州に伯父さんがいたので訪ねていった。映画祭のカタログを持って行ったのだが、カタログをみて、カタログに書いてあるジオットの「あらすじ」を伯父さんが音読し始め、「性器」と書かれている部分でカタログを閉じた。

<スタジオについて>

監督が現在勤めている「BEAN STUDIOS」はCGを制作する会社で、パソコンが苦手な監督はシナリオや演出の仕事をしている。スタジオ名「BEAN STUDIOS」のBEANは「Be Animation.」を表している。
今、何かと話題のヨン・サンホ監督の実写の長編『新感染 ファイナル・エクスプレス(原題:釜山行)』と対になっている『ソウル・ステーション/パンデミック』の、SCREEN-Xバージョンだけにあるクッキー映像を製作した会社でもある。
監督も以前、花コリスタッフで韓国のストップモーションスタジオで働いていた三宅と、同じスタジオで働いていたことが判明。

<『どーもくん』について>

2009年に約1ヵ月、どーもくんを制作しているドワーフのスタジオで研修をし、どーもくんの動きのアニメートを峰岸裕和さんから教わった。韓国からは2人参加したが、自分がそのうちの一人だった。韓国に帰国後も、スカイプ等のビデオチャットでやり取りして、どーもくんシリーズの撮影に携わった。

<『ちえりとチェリー』について>

中村監督はとても優しい人で、制作の最後に一人ずつに手紙をくれたのだが、それぞれのアニメーターがどのシーンを動かしたか覚えていて、丁寧に動きの感想が書いてあり感動したという。アニメーターは全部で5人だったので、5分の1はアニメートしたことになる。『ちえりとチェリー』のセットは、日本家屋で上からや横からの、まるで設計図のようなセット図が日本から送られてきて、セットを制作するチームがそれに忠実に作った。そのセットを作ったうちの一人がジオットの人形の原型を作ってくれた。『ちえりとチェリー』で、軒下に住むネズミのキャラクターをアニメートしたのだが、人形はとても小さく、軒下に潜り込んで、困難な体勢でアニメートをせねばならず、その時ばかりは、自分は何をやっているんだろうと思ったこともあった(笑)。その時の反動で、自分が撮るときは大きな人形を作ってやろうと思ったのかもしれない(笑)。

また、イジー・バルタの『見捨てられたクラブ』のスチ-ルイメージを見たときに、マネキンのような大きな人形をストップモーションにするなんて、カッコイイ!と衝撃を受けたそうで、いつか自分も大きな人形で作品を作ってみたいと思っていた。ただ、そのスチールイメージを自分なりにマネキンがスムーズに動く映像を妄想していただけだったので、実際の映像をスチールイメージを見てから10年後ぐらいにDVDを買って初めて見ることになったのだが、作品自体は大したことなかった、とのこと(笑)。

<これからについて>

結婚して、子どももでき、家族を養う立場になり、仕事に専念していたため、自分の個人の制作スペースもあるが、制作から2ヵ月くらい遠ざかっていた。今回の名古屋訪問で日本の観客に出会ったことをきっかけに、作品を作らねばという力をもらった。
シナリオは2つ考えているものがあり、1つはジオットみたいにコマ撮りと実写で、もう一つはアナログのカットアウトで、これもコマ撮りで作ろうと思っている。作品を完成させて、また日本の皆さんに披露できればと思っている。

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ホ・ジュンソク(『ジオット』監督)
1977年、ソウル生まれ。桂園造形芸術大学アニメーション学科卒。『こんにちは、クロベさん』(2006)、『いつでも返品してください』(2010)を演出。『ジオット』(2016)は、ソウル独立映画祭、ミジャンセン短編映画祭などで上映され好評を博す。bean studios所属。フリーランスのアニメーション監督としても活動中。



■『ジオット』字幕後記■

ジオットがルー大柴みたいに英語訛り、英語交りの韓国語を話しているのを、もっと前面に出して字幕をつくれば良かったと後悔しております。
また、『ジオット』作品内に出てくる原語では、性器を表す言葉をかなりそのまま連呼しているのですが、日本語字幕では自主規制してしまいました。辞書にも載っていない単語が出てきて、ネットで調べたら、もろブツの図解が出てきて当惑。
大阪会場のプラネットプラスワンのボス、富岡さんに、TV放送じゃないんだから、映画館での上映作は別にガンガン出していい、ということで、今後『ジオット』みたいな珍作が出てきたら、その時はガンガン攻めの字幕を付けていきたいと思います(笑)。(三宅)
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