[大阪会場]『Before&After』カン・ミンジ監督トーク録

『Before&After』カン・ミンジ監督トーク録

2017年4月8日(土)14:30の回短編プログラム2の上映終了後
ゲスト:カン・ミンジ(短編プログラム2『Before&After』)
司会:チェ・ユジン(KIAFA事務局長)
通訳:田中恵美

ユジン:カン・ミンジ監督は、大阪に来たのは2回目です。前回は2009年の花コリの時でした。
大学生時代を含めて10年ほど短編アニメーションの制作を続けられています。今までに自主制作で9作品、その他に、コマーシャル映像などの作品を制作しています。
アニメーションの制作を始めたきっかけは、何だったのですか?

ミンジ:本命の大学の入試に落ちてしまって(苦笑)、本意ではなく大学のアニメーション学科に入学したのですが、学校でカナダのNFBの作品やヨーロッパの作品に初めて接して、その魅力にとりつかれてしまいました。
アニメーションを作る際には、絵を描くことはもちろんですが、撮影をしたり、音楽をつくったりと、さまざまな作業をすることになります。卒業作品を作りながら、そうした作業の組み合わせが、非常に面白く感じられました。

ユジン:アニメーションではいろいろなことができると仰いましたが、今までの作品でも、さまざまな技法を用いていますね。今回の作品も、描彼たものだけではなく、手をコマ撮りするなど、実験的な表現をされているところがあります。作品を作る時に、いろいろな技法を使う意図は何ですか?

ミンジ:まず、自分が表現したいことに対して、どんな技法が合うのかを考えます。制作期間は短くても6ヵ月から長いときは1年ぐらいかかるのですが、自分が作りながら面白いと思えることが、何より一番大事だとだと思っています。自分自身も、実験的な技法を使うことに面白さを感じてい流ので、いろいろな技法に挑戦しているのです。

ユジン:『Before&After』に出てきた手は、どうやって撮影したのですか?

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『Before&After/비포 앤 애프터』
2016/07:54/ドローイング、ピクシレーション
いつものように会社の面接を終え、元気なく家に帰る途中。ソウルの街のあちこちには整形外科林立し、美男美女たちが彼女とすれ違う。家に帰った主人公はまた履歴書を書き始めるが、ふと机の上に整形外科のチラシを見つける。主人公は、輝く未来のために自分の身体と心を医者に任せ、危険な賭けに乗り出すが……。


ミンジ:あれは私の手です。ドローイングアニメーション(1枚1枚絵を描くアニメーション)で全体を作った後に、コマ撮りの部分を、既に描かれた絵を使って手と一緒に撮影しました。

ユジン:絵が変化していっても、前の絵が残っているという画面は、どのように作られたのですか?

ミンジ:一つのシーンを作るのに、1枚の紙の上に絵を描いては撮影して消し、その上から絵を描いて撮影して、という作業を繰り返しながら撮影していきました。
整形手術というのは、自分の本来の顔を消して新しい顔を作ることですが、鉛筆で描いたものを消して上描きする行為が、整形のプロセスとよく似ていると思ったからです。

ユジン:消しながら描いているのに、とてもきれいな画面に見えるのですが。

ミンジ:実際は、あまりきれいに消せていません。
特に前半の、背景と一緒にキャラクターが動くところは、キャラクターだけでなく背景も一回一回全部消しながら描き進めなければならなかったので、とても大変でした。

ユジン:制作期間はどのくらいですか?

ミンジ:今回の作品は、企画の段階から2年2ヵ月くらいかかりました。

ユジン:整形をテーマにした作品を作ろうと思った、きっかけは何ですか?

ミンジ:韓国で地下鉄に乗ると、整形外科の広告やポスターをよく見かけます。たいてい、整形前と整形後の「ビフォー」「アフター」の写真が載っているんですが、ある時、「ビフォー」「アフター」の間の「ビトゥイーン」の部分が抜け落ちていることに気が付き、とても不思議に感じました。
考えてみれば、私たちが生きている「今」というのは、常に「ビフォー」と「アフター」の間の世界を生きているわけです。「ビフォー」と「アフター」の間とは、一体どういうものなのかに思いを馳せながら、製作にかかりました。

ユジン:「整形」をモチーフにした作品は他にもあると思いますが、例えば、整形をしなければならないような社会の問題や、整形した人の心理や感情を描いた作品もあります。今回の作品では、どういう風に整形について語りたかったのですか?

ミンジ:整形手術について、否定的なメッセージを込めたわけではありません。今の社会は、見た目もある程度のレベルに達していないと幸福になれない社会なのだと感じています。「容姿」もその条件の一つです。ただ、整形手術は、自分の容姿を短期間で確実に変えられるという、とても異常なことではないかと考えました。自分の顔を他人に任せるということは、自分の人生をも他人に委ねるように感じられて、ある意味ギャンブルのような、非常に危なっかしいことだと思います。
人間が変わりたいと思うのは、幸福になろうとするからなのでしょうが、整形手術という選択は、実は幸福とは逆の悲劇的な方向ではないか、それでは悲しすぎると思って、私の考えを表現しようと思いました。

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(観客からの質問)

質問者:この作品を見て、描いてはまた消していく、という技法が新鮮でしたが、他の作品では、どんな技法を使われたのですか?

ミンジ:CG以外は、だいたい試してみたと思います。前回、2009年に大阪に来た時に『紙一枚』という作品を上映しました。ドローイングをベースとして、紙一枚の中で物語が展開しているのですが、紙の折り方をいろいろと変えていくことによって、一枚の紙の上でさまざまな場面や物語が現れる、という表現をしました。商業的なCFでは、視覚効果による目立つ表現が必要なので、手作業の味を出すためにストップモーションの技法を使ったりしています。例えば、枯れ葉や自然の中にある素材を使うなど、見る人の目に留まりやすい表現をしようと試みています。

Link into Animated Korea2009で上映した『紙一枚/A piece of paper』
a_piece_of_paper02.jpg
★インディ・アニフェスト一般部門優秀賞受賞★ 
『紙一枚/A piece of paper/종이 한장』
2008/11:08/paper, drawing
私たちの周囲にある紙一枚。
紙一枚一枚にはそれぞれのストーリーが盛り込まれている。


花コリ2012で上映した葉っぱを利用した『Natural Urban Nature』
C8natural.jpg
『Natural Urban Nature/내츄럴 어반 네이쳐』
2011/04:32/Object
「自然な都市の中の自然」がテーマ。変わることのない自然と、それを手入れしようとする人間。無数の花びらや木の葉がダンスを踊るように所狭しと動き回る。


ユジン:この作品の後に作られた作品のうち、インターネットで観られるものがありますが、その新作について、お話ししてください。

ミンジ:タイトルは『동그리니/まんまる(仮)』で、全5話の作品です。私は2015年に子どもを産みましたが、妊娠から出産、育児という大きな変化を非常に短期間のうちに経験し、自分でも戸惑ったことが多かったです。その中で自分が感じたことや、社会の中で出産して子育てするという経験を通じて、社会が変わらなければいけないと思ったことなどを、物語に込めました。

ユジン:You TubeのKanitheaterで配信しています。 
女性で出産、育児等の経験がある方なら共感できる作品になっています。

naver tv版 アニシアター
「동그리니/まんまる(仮)」全5話
Ep.1/Ep2/Ep.3/Ep.4/Ep.5


ユジン:これからの計画は?

ミンジ:短編制作に関しては、今年はちょっとお休みして、世の中で起きていることを素材にした作品を何か作りたいと思って、準備しています。世の中について語ろうと思うと、自分の内面で準備しておくべきこともたくさんあると思うし、勇気も必要です。今年のうちは、育児とそういった構想の時間に充てたいと思います。CFなどの商業作品は、引き続きやっていきたいと思っています。

ユジン:最後に一言。

ミンジ:私にとっては、9年前にここに来たのが、初めての日本の旅でした。なので私の中で日本というと、大阪の中崎町という町のイメージが、非常に大きいです。私にとっては、会場の下の「太陽の塔(カフェ)」で食べたピラフや丼物が、日本的なご飯です。
9年前は監督デビューして間もなかったのですが、9年後に監督としてもう一度ここに呼んでいただけたことを、大変嬉しく思っています。また9年後に、お会いするということで(笑)。ありがとうございます。



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カン・ミンジ(「Before&After」監督)
2006年短編アニメーション『吹き出物』をはじめ、『Hello!(2006)』『紙一枚(2008)』、『猫我(ミョア)(2010)』、『Souvenir Animation(2012)』等、さまざまな技法を活用した実験にアニメーション制作をしており、アニメーション技法を活用した広告、トレーラー映像、放送企画物等、商業的な制作の演出及び制作もしている。

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