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花コリ2016名古屋会場 土居伸彰氏トーク録

名古屋トークイベントその3
5月28日(土)18:30土居セレクション「懸命に生きる」上映終了後

ゲスト:土居伸彰(ニューディアー代表)
司会:西村嘉夫(シネマコリア代表)


★土居氏と韓国アニメーション


西村嘉夫(以下 西村):土居さんはアニメーションの研究・評論をされていますが、最近「ニューディアー」という、主にインディペンデント・アニメーションを配給する会社を立ち上げられまして、その代表をされています。今年は、米アカデミー賞にノミネートされたブラジルの長編アニメーション『父を探して(2013)』を配給されまして、名古屋では名古屋シネマティークで公開されました。また、現在東京で「ドン・ハーツフェルト作品集」が公開中ですが、こちらもニューディアーさんの配給になります。こちらはどんな作品集ですか?

土居伸彰(以下 土居):今はちょうど東京でドン・ハーツフェルトの劇場公開をしています。こちらもアカデミー賞ノミネートの『明日の世界(2015)』と旧作を合わせたものです。

西村:研究・評論で活躍されている方は多々いらっしゃるのですが、自分で配給・上映までされる方は非常に少なく、インディーズ・アニメーション界で今、大注目の方と認識しています。韓国アニメーションも積極的に紹介されておりまして、花開くコリア・アニメーション(以下 花コリ)ともご縁があります。昨年、花コリで上映した『ウリビョル1号とまだら牛(2013年)』は、土居さんがフェスティバル・ディレクターを務めている新千歳空港国際アニメーション映画祭(2014年開始)で日本初上映された作品です。『ウリビョル1号とまだら牛』は土居さんが選ばれたのですか?

土居:花開くコリア・アニメーション、そして韓国のインディ・アニフェストは韓国インディペンデント・アニメーション協会主催ですが、事務局長のチェ・ユジンさんをはじめ、昔から親しくさせていただいていました。新千歳空港自体、アジアとの就航便が非常に多いということで、積極的にアジアの作品を取り上げていきたいという方針がありまして、だったら良いタイミングだろうということで、まだ日本に紹介されていない『ウリビョル1号とまだら牛』をぜひやりたいと思い、上映させてもらったという経緯です。

TheSatelliteGirlandMilkCowPoster.jpg

西村:昨年、花コリで『ウリビョル1号とまだら牛』を上映した時は、日本語字幕版ブルーレイを新千歳空港国際アニメーション映画祭からお借りしています。韓国アニメーションを紹介しているのは、花コリがナンバーワンだと思うんですが、おそらくその次に韓国の長編・短編アニメーションを紹介しているのは土居さんなのではないかと思います。

注:土居氏は、新千歳空港国際アニメーション映画祭2014で長編『ウリビョル1号とまだら牛』、同2015で長編『Clearer than You think(原題 思ったより澄んだ)/생각보다 맑은』、短編『Afternoon Class』、『日々の罪悪』、『小さな冬の集まり』などを紹介しているほか、主宰されているアニメーションフェスティバル「GEORAMA2016」では長編『フェイク(原題 サイビ)/사이비』、短編『繭』、『ウィンク・ラビット』を上映している。


★韓国インディーズ・アニメーションの特徴

西村:今回「懸命に生きる」というタイトルで9本の作品を土居さんにセレクションしていただきました。本日は、韓国アニメーションの魅力や選定理由についてお話しいただければと思っております。

土居:僕は、評論や配給を通じて、海外のアニメーションを様々な形で日本に紹介する仕事をしておりまして、海外の映画祭によく行く機会があるのですが、最近、韓国のインディペンデント・アニメーションは非常に元気がいい印象を受けました。例えば、2年前のオランダ国際アニメーション映画祭では、長編部門でヨン・サンホ監督の『The Fake/사이비』、短編の方ではチョン・ユミ監督の『Love games恋愛ごっこ/연애놀이』がグランプリを取りました。同じ年のアヌシー国際アニメーション映画祭ではチョン・ダヒ監督の『椅子の上の男/의자 위의 남자/Man on the Chair』がグランプリを取りました。それに象徴されるように、今、韓国アニメーションが非常にきてるな、という印象がすごくありました。面白いアニメーション作品を日本に紹介するのが自分の一つの役目だとも思っていますから、韓国アニメーションは積極的に取り上げていきたいなと。そんななか、去年、韓国国内のインディペンデント・アニメーションを中心に上映するインディ・アニフェストにお邪魔しまして、それは日本の作品を紹介するためだったのですが、映画祭でたくさんの韓国の作品を観て、韓国のアニメーションの強みが改めて分かったというか…。

『The Fake/사이비』
TheFake.jpg


『Love games恋愛ごっこ/연애놀이』
A09_Lovegames01.jpg


『椅子の上の男/의자 위의 남자/Man on the Chair』
Man on the chair_02_905


西村:日本や海外で韓国アニメーションを観ているだけだったのが、現地韓国に行くと、もっと色々な作品があることが分かった訳ですね。具体的にどんな特徴を感じられましたか?

土居:全体的な傾向として、「物語を語る」という要素がすごく強いなという印象を持ちました。映画祭などで評価されるインディペンデントの短編アニメーションは、実験性の強さだとか、そういったところも評価として大きくて、必ずしも物語にフォーカスが当たらないということも多いと思うんですけど、韓国の作品は短編・インディペンデントでありながら、物語で観客を楽しませるという傾向があるなと。現地に行ってみたら、やはり皆そっちの方向にすごく関心が向いているような感じがあったんですね。それって意外と世界の中では珍しいというか。花コリでは毎年必ず長編作品も上映されますよね。インディペンデントでありながら、長編の分野に人がどんどん進出していって、けっこう元気がいい。そういった状況のなか、作家の人たちが「アニメーションで強い物語を語る」という方向に目が向いているのかなと。僕もそういった部分で感銘を受けまして、そういう作品をたくさんピックアップしたという形になりますね。

西村:ストーリーを力強く語るというのは、ひょっとしたら教育の影響もあるのかな?と思っています。今回ゲストでお越しいただいている『Little King』のキム・ヘミ監督は韓国映画アカデミーという教育機関の出身でして、今、ご覧いただいた作品の中では4番目の『繭』という、寝てても絶叫で叩き起こされるような強烈な作品がありましたが、この作品のヨ・ウナ監督も韓国映画アカデミー出身です。昨年、名古屋会場のゲストだった『かたつむり』のジン・ソンミン監督、『亀裂』のアン・ヨンヘ監督も韓国映画アカデミー出身で、『かたつむり』も『亀裂』も社会派アニメーションでした。いずれも観客に伝えたい主張がはっきりある作品です。

土居:そうですね。日本で短編を学ぶ人は、たぶん美術大学で美術やデザインから派生したものとして、ある意味グラフィックの芸術として学ぶことが多いかなと思うんですが、韓国映画アカデミーは、むしろ映画から派生したものですよね。

西村:元々は実写の映画学校で、そこにアニメーション・コースができました。

土居:アニメーションを使って映画をどういうふうに作りうるか?という問いや、産業面を見据えたエンターテインメント性があったりだとか、そういったところが教育の中で意志としてあるんだろうなというところがあって。イギリスでいえば国立映画テレビ大学だとか、そういう立ち位置に近いのかなと。韓国はそこらへんがうまくいっているんじゃないかという印象を持ちますね。


★土居セレクション作品

 
西村:では土居セレクション「懸命に生きる」上映作についてお話しいただけますか?


■『Material Girl / 메테리얼 걸』
A01_Materialgirl.jpg
チョン・ジンギュ/2015/10:00/2D
少女は動物たちと一緒に暮らしている。丘の上にデパートができたことで、少女の生活は変わり始める…。 


土居:僕が選ぶ作品は暗いのが多いと言われがちなのですが、笑える作品も結構好きで、今回のプログラムでは、僕自身のセレクトとしては珍しく、クスっと笑える作品や安心して楽しめる作品もあります。『Material Girl』や最後の『Afternoon Class』がまさにそういう作品でして、非常に安心して楽しめるし、ある種の物語の定形を、お客さんの物語の期待を裏切らずに、しかもそれを楽しく語ってくれます。

西村:オチはどちらもビシッと決まってますしね。

土居:そうですね、はい。

西村:予想を外されてびっくりというパターンと、予想通りでスカッと気持ちいいというパターンがありますが、この2作品は後者にあたりますね。

土居:「懸命に生きる」というタイトルについても触れると、プログラム全体のテーマとしまして、主人公たちが何かしら自分の思い通りにいかない力によって翻弄されるとか、自分自身を見失ってしまったりとか、そういったような形で「人生のままならなさ」に直面するような作品を選んでいます。そういう意味では『Material Girl』は、本当は大切にしなければいけないような世界があるのに、他の物に目がくらんで枠から外れてしまうという物語です。エンディングもちょっとビタースィートな感じですし。そういったプログラム全体の傾向をガイドするため、この作品を最初に上映しました。

西村:上映順も土居さんが決められたのですか?

土居:そうです。特に短編を見せるときには、必ず上映順の問題が出てくるんですよね。オムニバスで上映する場合、どう頑張っても前後の作品と影響しあってしまう。だから短編のプログラムを作る時はいつも敢えて、作品がぶつかりあうことでそれぞれの作品の見え方が変わってくるようなプログラムの組み方をしますね。ある意味で暴力的とも言えるのですが…ひとつのテーマに沿わせて、プログラム全体が物語になるようなかたちで組みます。

西村:そうすると『繭』の後に『小さな冬の集まり』を持ってきたのは計算済みということですね?

土居:そうですね(笑)。

■『繭/고치/Cocoon』トレーラー

ヨ・ウナ/2015/12:22/2D、セル、ドローイング
ミナは病気の母親とふたり、古いアパートで暮らしている。繭に変身する病気にかかり、化け物になってしまった母親。ミナはギリギリの精神状態で看病するが、病状はますます悪化し、母親の生死を脅かす。恋人のチョルグはそんな彼女を怪しく思い、家の様子を疑い始める。 



■『小さな冬の集まり/작은 겨울 모임/Tiny Winter Circle』本編

シム・ボムシク2015/02:22/2D、3D、実写
少女が見つけた、おじいさんの古いオルゴール箱。好奇心から箱を取り出してねじを巻く少女は、そのメロディーが誰の目を覚ますのか全く気付いていない。長い間オルゴールの中で眠っていた世界中の小さな冬のモンスターが、ひとつ、ふたつと伸びをし始めるのだが…。 


西村:この順番で観たら誰でも『小さな冬の集まり』を何回でも観たい、癒されたいと思うでしょうね(笑)。

土居:この『小さな冬の集まり』のシム・ボムシク監督(サイト)とは昔、ドイツのシュトゥットガルト・アニメーション国際映画祭で会ったんですが、たくさんビールをおごってくれたので、こういう形で彼に恩返しというか、はい(笑)。これの一つ前に作った『The Wonder Hospital(2009)』という作品がありまして、それは韓国の美容整形の問題をかなり卓越した3DCGアニメーションで表現したものです。彼はアメリカでアニメーションを学び、現在も残って活動しています。この作品を観ると、かわいらしい作品を作るような人に見えるんですが、実は他の作品は『繭』に負けず劣らずの非常に強烈な作品です。かわいいからと好きになって他の作品も観たらもっと強烈な作品が待っていたという、そういうのも帰宅されてからの楽しみとしてあるのかなと(笑)。


■『The Wonder Hospital』本編



西村:皆さん非常に気になっているのは『あああ』という作品だと思います。
何で選ばれたのだろう?と言いますか、色々な意味で関心があると思うのですが(笑)。


■『あああ/아 아 아/Ah Ah Ah』トレーラー

ノ・ヨンミ/2015/14:37/切り紙、実写、人形
謎の病によって、母親は幼いヒソを残しこの世を去る。マラソン大会で優勝した経験を持つ父親は、引退後もずっと過去の栄光の中で生きており、ヒソにも成功と勝利を強要する。おとなしく内気なヒソは、父親の言いつけ通り真面目に学力テストの準備をし、試験の日が徐々に近付いてくるが…。 



土居:実はこの作品字幕付きで観たの今日が初めてで。現地でも韓国語だったのでちゃんと意味がわかってなかったんですが、ようやく字幕を観て分かった部分があるものの、分からない部分も残る。でも、その「何なんだろう?」という部分が実はこの作品で一番面白いところ。意味わからないじゃないですか。何であんな頭の形してるんだろうとか(笑)。

西村:一番気になりますよね。

土居:頭とがった人と河童みたいな人と…何なんだろう。

西村:世界の偉人の格言を暗記するためのアニメーション、ではないとは思うんですが、でも何なんだろう何なんだろうと思いながら観ていると引き込まれるんですよね。最後まで観客を引きこんでちゃんと見せきるというのは、それはそれで才能なんですかね。

土居:ちょっとズレた感じがどこまで狙っているのか天然なのか分からないんですが、それをいうと『あああ』も『繭』もどこまでこの人達は意図的にやっているんだろう、という面白さというのがありますね。もしかしたらちょっと頭のおかしい人かもしれないと思ってしまいますね。


★強烈な作品『繭』とヨ・ウナ監督の才能


西村:『繭』のヨ・ウナ監督は何回かお会いしたことがあるんですよね?

土居:『繭』を最初に観たのは世界最大のアニメーション映画祭のアヌシーで、そこの学生部門にノミネートされていました。現地で観て、かなり度肝を抜かれて…。僕も強烈なのがけっこう好きな方なのですがそれでもびっくりするような作品で。でも実際に監督に会ってみるとものすごく穏やかで、かわいらしい女性の監督なんですよ。だから作品とのつながりが全然よくわからなくて…恐ろしいなと思いましたね(笑)。どこからこのパワーが出てくるのか…。

西村:この作品、外のロビーで座ってても絶叫が聞こえてくるんですよね(場内爆笑)。他会場で回収した投票用紙に「『繭』だけ音量が大きすぎました」と書いてありまして。音量レベルは全部同じにしてあると思うんですけど(笑)。やはりあの絶叫は耳に残りますよね。

土居:最後のエンディング・クレジットの現代音楽も印象的です。ちゃんとクレジットを確認できていないので定かではないのですが、たぶん現代音楽の楽曲を使っているのではないかなと。フレームをぐるっと逆さまにひっくり返すラストの力技も含めて、この監督、何か途方もない力を秘めているなというのがあり。噂によると映画アカデミーの長編コースに入ったということで。本当は当初、東京会場の方はヨ・ウナ監督が来日する予定だったんですが、長編コースに入学できたということで来れなくなったんですね。ということは1年後、2年後に彼女が監督した長編のアニメーションが出てくるということで…。

注:『繭』のエンディング・ミュージックを担当しているのはCMB567(Contemporary Music Band 567)。
CMB567の音楽はYOUTUBEなどで鑑賞できる。

西村:韓国映画アカデミーには、アニメーション演出コースの上に、長編アニメーション・コースがあります。そこで完成した長編は非常に限定的な形ではあるんですが劇場公開もされます。花コリで上映した、2011年の『ロマンはない』2012年の『家』は、韓国映画アカデミーの長編コースで作られた作品です。脚本を書いてコンペで選ばれるとお金を出してもらえて自分で作ることができ、それが劇場公開されるというシステムです。完成には2年位かかると思うので、3年後・4年後の花コリで上映されるか、それとも土居さんが先に上映してしまうか(笑)。

土居:そうですね、奪い合う可能性があるんですが(笑)

西村:土居さんのほうで、字幕付きのブルーレイを作っていただいて、それをうちでお借りできれば(笑)。お金かかるんですよ、字幕作るの(笑)。

土居:音量はちょっと抑え気味で上映して…(笑)。

西村:韓国の監督って、いきなりカラーが違うものを作られるので、我々は『繭』のイメージをずっと引きずってますが、次の作品は本当にすっごいかわいらしい作品を作るとかあり得ますね。それはそれで楽しみですが。

土居:そうなってくるとますます監督のヨ・ウナさんが怖いなってなってきますけどね(笑)。その振れ幅は一体何なんだろうというところで。

西村:花コリ東京事務局のスタッフから聞いた話では、ヨ・ウナ監督は楳図かずおや伊藤純子のファンだそうです(会場から驚きの声)。あの絵ならそれも納得です。楳図かずおvsヨ・ウナの対談とか実現できたら絶対面白いでしょうね。

土居:楳図かずおの作品を長編アニメ化したりだとかね…(笑)。

西村:去年名古屋会場のゲストだったジン・ソンミン監督もウェッブ漫画を始めてます。最近、韓国映画もウェッブ漫画を実写化するケースが多いので、将来、ジン監督の漫画を原作とした実写作品が日本公開されるといった可能性もありますし、紹介する側も色々な形で紹介できるのが楽しみなんですよね。韓国のインディーズ・アニメーション監督は、短編アニメーション限定ではなく、漫画、イラスト、長編アニメーションに実写作品と、色々な形で幅広く活動されているので。そういった点も、韓国と付きあってて面白いというか、こちらが勝手に楽しませていただいている部分です。

土居:それが活気につながっているのかなと、今回の作品は学生作品がすごく多いと思うんですが、学生にとってみたら韓国映画アカデミーも含めて、次の未来が見えやすいというか。だいたいどこの国でも大学でアニメーションをつくっていても卒業しちゃうとそれでもうおしまい、というのが多いなかで、色々な展開があり得る、特にユニークな才能を持った方がそういう風に羽ばたける場があるというのは非常にいいことですよね。


★韓国インディペンデント・アニメーション協会(KIAFA)の存在意義


西村:今日も韓国インディペンデント・アニメーション協会(以下 KIAFA)のパン・ギスさんの話にもあり、キム・ヘミ監督の話にもありましたが、そういう作家さん達を応援しているのがインディ・アニフェストなんですね。主催のKIAFAですが、世界的に見て、こういう団体はあるのでしょうか?

土居:あることはあるんですけど、ここまでちゃんとやってるところはないと思うんですよね。最初はインディペンデント・アニメーション作家たちの権利を守るために作られた団体なんですよね、勝手に作品が上映されちゃったりとか著作権の問題とか、そのあたりを守るために。でもそこから始まって色々な映画祭に出品する配給の仕事をしたり、韓国国内の劇場配給もしたり。

注:パン・ギス氏のトークで語られたように、KIAFAはハン・ジウォン監督の長編オムニバス『思ったより澄んだ/Clearer than You think/생각보다 맑은』、今回花コリで上映したイ・ヨンソン監督の短編『トイレコンクール』を韓国内で劇場公開している。


土居:アニメーションを作る人たちって、ふだんは部屋にこもってコツコツと長い時間やっていてあまり人に会う機会もない、そういう中でインディ・アニフェストがあると、1年に一度、わーっとみなで集まって、お酒飲んで…みたいな、すごくアットホームな場ができあがる。ある意味で言うとインディペンデント・アニメーション協会を中心にして一つのアニメーションの家族ができあがっているような感じがすごくある。インディ・アニフェスト、今までは募集を韓国作品だけを対象にしてきたんですが、今年(2016年)からアジアを対象にコンペティションが新設されたということで、日本で制作されている方もインディ・アニフェストに参加されるチャンスが増えていきますね。

西村:花コリのチラシには毎年「韓国唯一のインディーズ・アニメーション映画祭、インディ・アニフェストの最新上映作を紹介しています」といった文章が必ず載っています。「韓国唯一のインディーズ・アニメーション映画祭」というのがインディ・アニフェストの矜持、誇りなんですが、先日KIAFAから来たメールマガジンを読むと、今年からアジア各国から作品を集めることになったので「世界唯一のアジア中心のインディーズ・アニメーション映画祭」に変わるようです(笑)。すごい発想が、でかいんですよね。

土居:普通、そういう協会というとある種保守的というか、なかなか新しいことができないと思うんですが、どんどんやっているのですごいなと。

西村:先ほどパン・ギスさんのトークでもちょっとお話したんですが、アジアのいろんな国から応募があって、インディ・アニフェストで賞を取ったら、その作品が花コリで上映されたり他のアジア諸国で上映されたりする可能性がある。日本にいながらにしてアジア・デビューできちゃう、そういう仕組みをこれから作ろうとしているように見えます。すごい発想力であり、どこからこのパワーは出てくるんだろうと。さっきのヨ・ウナ監督の話ではないですが。

土居:今、作品に力があるからそうなっているのか、協会がちゃんとやってるから作品に力が出てくるのか、おそらく両方なのかな。

西村:ニワトリが先か卵が先か、じゃないですが、とにかく歯車がうまくかみ合っていることは確かですね。

土居:すごくいい感じになっているなぁというのが、隣国から見てすごくうらやましいです。


★注目監督はヨ・ウナ、オ・ソロ、ヨン・サンホ

西村:この作家に注目しているとか、ニューディアーで配給してみたい作品はありますか?

土居:ヨ・ウナ監督の長編は、間違いなく凄いのになるのだろうなと思います。東京会場はヨ・ウナ監督の代わりに『Afternoon Class』のオ・ソロ監督が来てくれたんですが、彼もすごく新しい才能だなと思っていて。東京会場では彼が『Afternoon Class』の前に作った『ARTIST-110』というロボットが出てくる作品を上映したんですが、エンターテインメントとして非常に優れており、一方で個人で作っているということで彼自身の個人的な問題意識がすごく反映されていて…全体的なセッティングはピクサーっぽいんですが、何かしら一筋縄ではいかないところがある、けどすごく楽しめるというところがある。彼はロボットがすごく好きでトランスフォーマーのファン映像を勝手に作ってるんですよね。いろんなトランスフォーマーが車からロボに変身していくみたいな様子をCGアニメーションで作って、You Tubeで何百万回再生になったりしているんですが、そこらへんも含めて、もしかしたら5年後、10年後ピクサーとかそういうところで監督としてちゃんとやったりしているんじゃないかなと思えたり、そういう形の楽しみがありますね。あとは今回は上映がありませんでしたがヨン・サンホ監督ですね。

西村:ヨン・サンホは、今月カンヌで上映されて話題となったのが実写の『釜山行き』、それとアニメーションで『ソウル駅』という新作があります。


■長編アニメーション『ソウル駅 / 서울역』予告編



■長編実写映画『釜山行き / 부산행』予告編



土居:今度はアヌシーの長編のコンペティションで。

西村:ヨン・サンホは、今、韓国でも大注目を浴びていて、アニメーション監督からスタートして実写を撮っている監督です。タイトルからも分かるかと思いますが、『ソウル駅/서울역』と『釜山行き/부산행』(の列車)ということで連作です。この2作品は、アニメーション映画祭でダブル上映するのか、実写映画祭でダブル上映するのか、どちらにしても上映する側からすると仕掛け甲斐があるというか、めちゃめちゃ面白い人ですね。ゾンビ物で、スター俳優も出てます(『釜山行き』にはコン・ユ、チョン・ユミが出演、『ソウル駅』にはリュ・スンリョン、シム・ウンギョン、イ・ジュンが声優を担当)。ちゃんと興行のことも念頭に置きつつ、作家性もばっちりキープした作品を作る方です。今年、土居さんが主宰されている「GEORAMA」でヨン・サンホの長編アニメーション『フェイク(原題 サイビ)/사이비』を上映されましたね。観客の反応はいかがでしたか?


■長編アニメーション『フェイク / 사이비』予告編


土居:あれは、もう皆、ぐったりして帰っていきましたね(笑)。ダムに水没することになっている郊外の町に新興宗教の団体がやってきて、絶望に陥っている人たちのお金をどんどん巻き上げていく。それに対して荒くれ者が挑んでいく。その人自身もめちゃめちゃどうしようもない人なんですが。暴力、洗脳、宗教の嵐、最終的には何の救いもなく終わる…でも、皆を嫌な気持ちにさせてやろうというのではなくて、現代に生きていくうえで味わう真実の感情というか、そういったものをすごく鮮烈に描き出しているなという気がします。前作の長編『豚の王』からもそうですが、社会の中でそれこそ懸命に生きている人たちの姿を嘘なく描いていて、しかも映画として楽しめるというようなところで、今回のプログラムを組む上でも、ヨン・サンホは今の韓国のインディペンデント・アニメーションの強さを象徴している存在だよなと思いながらセレクトしていました。彼の作品は今までちゃんと日本で配給されていないので、もしチャンスがあったらできたらいいなと思っています。

西村:ヨン・サンホの作品は、短編時代から花コリの前身「Link into Animated Korea」で上映していますし、『豚の王』は花コリ2013で日本初上映させていただきました。『フェイク』は土居さんが扱われましたし、私どもと土居さんでご一緒すれば、不可能な企画が可能になるかも知れませんね。


★インディーズ・アニメーションの未来

西村:花コリは韓国アニメーションだけを紹介していますが、土居さんの場合、世界のアニメーションを上映する中での韓国となります。世界の中の韓国アニメーションの位置づけは現在どのようなものなのでしょう?

土居:たぶん今、世界全体としてインディペンデントの才能が大きく注目を浴びてきている状況だおと思います。ニューディアーで配給している『父を探して』はブラジルで、監督のアレ・アブレウはテレビなどでやってきた人間なんですが、自分たちでスタジオを立ち上げて『父を探して』を作った。アニメーションの歴史や産業がそこまでない国って、例えばピクサーだとか、既存のフォーマットをそのまま使った作品を作りがちなんですが、そうじゃなく、すごくフレッシュな新しいかたちのアニメーションを生み出していく状況がある。夏にアイルランドのトム・ムーア監督の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が日本公開されます。トム・ムーア監督は去年インディ・アニフェストで本選審査委員として招かれていていましたね。彼もそういった象徴的な存在です。自分の国で起きているローカルな現実からスタートしながらも、それを普遍的なエンターテインメントに落としこんでいく作風です。そういった世界的傾向のアジア版として、韓国があるのかなという気がしています。映画祭受けするというだけではなく、特徴的な個性が自分の暮らす現実を正面から見据えて、作品を作る。韓国のインディペンデント・アニメーションは社会問題を扱うことが昔から多いですが、ヨン・サンホの場合、そこにエンターテインメント性が加わっていく。ブラジルのアレ・アブレウ、アイルランドのトム・ムーア、イスラエルだったら『戦場でワルツを』のアリ・フォルマンがいたりしますが、ローカルなところで新しく生まれてくるアニメーションのスターとして、韓国のヨン・サンホがいる。

西村:土居さんは結構社会性の強いアニメーションがお好きなんですか? 『父を探して』は、予告編でものすごいファンタジーで心温まるファミリー系の作品なのかなと思っていたのですが、環境問題や経済問題もボンボン出てきて、ちょっと驚きました。

■『父を探して』


土居:直接的に社会問題を扱う作品って実はそんなに好きじゃなかったりします。インディペンデント作品や短編作品って、個人作家のアイデアとか才能がベースになっているわけで、その個性が強烈になればなるほど、社会との軋轢はどうしても生まれてきてしまうものだと思うんですよね。
今回のタイトルの「懸命に生きる」っていうのもそうですが、懸命に生きていくと、世界や社会との軋轢や問題はどうしても付随して出てくる。その個人と社会のあいだのテンションみたいなものが反映されている作品が非常に好きなんですよ。そういった意味での社会性の表現。

西村:私は花コリの名古屋会場を宣伝する立場ですので、マスコミの方々から「今年の見どころは?」、「韓国アニメ―ションって何が特徴なの?」といった質問をよく受けます。「社会性のある作品、社会派の作品が多いです」と答えることが多いのですが、7月に大須のシアターカフェで開催される「WAT2016 世界のアニメーションシアター」のチラシを見ましたら、「<いろいろな愛を描くアニメーション>と<社会的視点を持つアニメーション>の特集上映」と書いてありまして、日本と韓国のアニメーションを比べると韓国は社会派というイメージがものすごく強いのですが、むしろ世界全体に社会的視点を持った作品が増えていて、日本のアニメーションが社会性を持たなすぎるのかな?とも思ったのですが、そんな可能性ってありますでしょうか?

注:「WAT2016 世界のアニメーションシアター」は、花コリ2014名古屋で『はちみつ色のユン』を上映した時、ゲストで来場された伊藤裕美さんの企画。世界の短編アニメーションがパッケージで上映される。

土居:たぶん日本とアメリカは、そういった意味での社会性は出てきづらい。産業として成立しているがゆえに、不要になってくる。すごく下世話な話をすると、社会的な問題を扱う作品って、制作に助成金が出やすいですよね。アニメーションって基本的にはそんなにお金的には割に合わない。アメリカや日本みたいに産業として成り立っている国自体非常に少ない。フランスもアニメーションはすごく盛んなんですが、そのほとんどの制作費は国や地域からの補助なんですよね。そういった公的なお金が入ってないと産業としての成立は厳しいのがアニメーション。そういう状況のなかで、社会性を持ったものであれば制作が成立するという身もふたもない現実の部分があったりする。アニメーションというもの自体、どちらかというと現実逃避というか、現実とは違ったファンタジックなものを描く、みたいなふうに考えられがちです。でも、むしろアニメーションの方が、皆で共有する現実じゃなくて個人がみている現実というのを、その偏狭性も含めてグラフィックとして反映しやすい。それゆえに、アニメーションがマジョリティーとはちょっと違った目線を持った人たちの世界を描くのにすごく向いているということが発見されつつある。そういう経由でも社会性は出てくる。こういう新しい可能性は、それまでアニメーションが盛んじゃなかった国で成立しやすい。「アニメーションってこういうものだよね」という前提が共有されていないので、こういうアニメーションのやり方もあるじゃん、と新しいシチュエーションを発見しやすいともいえる。そういう要因で、新しいアニメーションが今、いろんな世界で生まれつつあるのかなと思っています。

西村:そういう新しい作品こそが、土居さんがアニメーションを紹介する原動力になっているんでしょうね。

土居:そうですね。観た人の世界の見方が変わっていくというようなダイナミズムみたいなものがアニメーションを観る楽しみなのかなと思ったりします。

西村:ありがとうございました。土居さんの今後の活動についてお聞かせください。

土居:新千歳空港国際アニメーション映画祭でちょうど今、短編作品のコンペティションが作品を募集中でして、もし皆さんの中で作品を作っている方がいらっしゃいましたら、締切が6月30日までですので是非応募してください。この映画祭は空港の中で行われるという非常に特徴的な映画祭なのですが、今年は11月3日から6日までやりますので、ぜひともそちらも遊びに来てくださればと思います。あとはドン・ハーツフェルトの上映も東京以外でもできたらなと思っているので、上映の際にはぜひとも足を運んでいただければと思います。

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土居伸彰(ニューディアー代表)
ニューディアー代表。新千歳空港国際アニメーション映画祭フェスティバル・ディレクター。短編やインディペンデント作品を中心に、アニメーションの研究・評論・配給・プログラム選定などを手掛ける。亜紀書房より「ワールドアニメーショントラベルガイド」が今年出版予定。GEORAMA主宰。

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tag : 花コリ 名古屋 トーク録 土居伸彰

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