『ロマンはない』ゲストトークin花コリ2011名古屋

作品紹介『ロマンはない』

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監督 ホン・ウンジ、スギョン、パク・ジェオク/What is not Romance?/2009/70分/2D
 黄(ファン)さん夫婦は27回目の結婚記念日を迎える。出前で豚足を取り、子ども達と語らう中、話題は夫婦のさえない思い出話に。子ども時代の出来事、お見合いの席、初めて結ばれた夜、結婚式、そして家族旅行。ほんわかとしたぬくもりの中、なんの“ロマンもない”平凡な夫婦の人生を通して、市井の人々の生活がコミカルに描かれる。
 国立映画学校「韓国映画アカデミー」でアニメを専攻した3人の監督が中心となって制作し、韓国最大手の映画会社CJエンターテイメントが配給して劇場公開された、期待の長編インディーズ・アニメーション。韓国版『サザエさん』、それとも『ちびまる子ちゃん』の出現か?! 第14回(2010)ソウル国際漫画アニメーション・フェスティバル(SICAF)長編部門グランプリ受賞、第14回(2009)釜山国際映画祭特別企画プログラム「アニ・アジア!:アジア長編アニメーションの新しい跳躍4」招待作品。


ゲストプロフィール

ホン・ウンジ(『ロマンはない』監督)
 1981年、全州生まれ。延世大学化学科卒業後、アニメーション・スタジオで原画・動画の仕事をする。2008年に韓国映画アカデミー(アニメーション演出専攻)を卒業。卒業作品『ヨンヒ、何してんの?』(2008)は「花開くコリア・アニメーション」の前身「Link into Animated Korea 2009」で上映されている。2009年、韓国映画アカデミーの制作研究課程で『ロマンはない』を共同演出。本作のシナリオは、ホン・ウンジ監督の両親の話をもとに、色々な人に取材をして作りあげた。

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観客のためにイラスト入りサインを書いて下さった
スギョン監督(左)とホン・ウンジ監督

スギョン(『ロマンはない』監督) 
1976年、ソウル生まれ。中央大学(韓国)と東国大学大学院で韓国画を専攻した後、韓国映画アカデミーでアニメーションを学ぶ。在学中に制作した短編アニメ『Sweets』(2008)は、広島国際アニメーションフェスティバルに招待され、Link into Animated Korea 2009でも上映された。2009年に韓国映画アカデミーで同期だったホン・ウンジらと『ロマンはない』を共同演出。スギョン監督は、水彩画を使った背景とマンガ・チックなキャラクターを馴染ませるのに苦心したという。

ツジシンヤ(アニメーション作家、アーティスト、大学講師) 
1974年、愛知県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、ドイツに留学してカッセル美術大学、ケルン・メディア芸術大学でアートとアニメーションを学ぶ。国内で多数の受賞歴を持ち、イギリス、カナダ、韓国、ドイツなどの美術館・映画祭で作品を発表。独仏のTV局ARTEで自作が放送される。現在、愛知県の大学でアニメ制作やアニメーション史の授業を担当するほか、気軽に参加できる低価格のアニメスクール「スタジオきんぎょ」を名古屋市と春日井市で主催している。



2011年5月15日(日)
愛知芸術文化センター アートスペースEF
ゲスト:ホン・ウンジ(『ロマンはない』監督)、スギョン(『ロマンはない』監督)、
チェ・ユジン(韓国インディペンデント・アニメーション協会事務局長)
司会:ツジシンヤ(アニメーション作家、アーティスト、大学講師)
韓日通訳:田中恵美、日韓通訳・採録:加藤知恵

『ロマンはない』について

── 作品中の長女とホン監督の姿が似ているが?

『ロマンはない』は元々ホン・ウンジ監督の家族がモデル。キャラクターをデザインしたスギョン監督がホン監督に似せて描いた。


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主人公のファンさん一家 左から父親、長女、母親



── 学生が長編制作をするのは大変だったのでは?

三人で共同演出した。皆長編制作は初めてなので、制作中も審査の過程でも苦労が多かった。

── 家族をテーマにした身近な内容だがほとんど実話?

モチーフは実話だが、キャラクターを確立させ、ドラマとして盛り上げるために30%程度は脚色した。

── アニメーションで日常的な素材を描いたことが魅力だ。

制作前にアドバイスを受けた時は、平凡すぎるのでは?という意見もあった。そこが良いとほめてもらえると嬉しい。

── 食事やお酒のシーンが印象的で、どんな味がするのか気になった。

上映後にたくさんの観客が中華料理や豚足を注文した。お店から後援金をもらっても良いくらいだった。

── 今回の長編は学校での卒業制作?

韓国映画アカデミーの制作研究課程では、毎年一本ずつ外部からの審査・支援を受けて長編作品を制作することになっている。

── 日本の学校ではそのような支援体制がないので羨ましい。

決して制作環境が恵まれているわけではない。逆に日本の方が、政府や外部からの支援がなくても制作できるほど整っているのだと思う。特に韓国映画アカデミーは政府機関の傘下にあるので、民間の学校とは少し状況が違う。

── 初めての長編制作で、短編と比べて苦労した点、面白かった点は?

作品も作業期間も長いので、ストーリーボードを書いたり、三人の意見をすり合わせたり、全ての過程が新鮮で面白かったが、大変だった。CGを使わず全て手作業で行い、水彩画を使用したので、各コマのトーンを合わせるのも難しかった。大勢のスタッフが必要だったので、彼らとの意思疎通にも気を使ったし、監督同士、実際に何度もケンカをした。しかし、完成後に大きな賞を貰えたことで全て報われて水に流れたと思う(*)。

(*)『ロマンはない』は、第14回(2010)ソウル国際漫画アニメーション・フェスティバル(SICAF)で長編部門グランプリを受賞している。

── チラシで韓国版『サザエさん』『ちびまるこちゃん』と紹介されているが、これらの作品を見たことはあるのか?

運動会の場面では日本の作品も参考にした。『ちびまる子ちゃん』や『ホーホケキョ となりの山田くん』はとても好きな作品で全体的な雰囲気も参考にしている。


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ホン・ウンジ監督


── 前半は楽しいエピソードが多いが、後半にはお母さんがうつ病になるなど深刻な場面がある。そのような内容を盛り込んだ理由は?

テーマの中心として「ロマンはないが、愛はある」ということを伝えたかった。「ロマン」のように劇的・スペクタクルなものではなくても、日常生活の中で心に傷を負い、和解する時に芽生える感情を愛と捉えることもできると思った。だから明るいエピソードだけでなく、あのような場面を入れて夫婦の愛を表現したかった。

── 次回作は?
[スギョン監督]二人で一緒に『ソウルに暮らす子猫』という作品を作っている。ソウルの古い町並みの再開発を背景にした作品。別々に制作している短編として、お見合いを重ねる36歳の独身女性の生活・心情をテーマにした作品も作っている。
*『ソウルに暮らす子猫』は2011年に完成し、花コリ2012 Bプロで上映されます


[ホン監督]全羅道の昔話で、爪を食べて人間になるネズミの話をモチーフに、現代女性の姿を描いた作品を作っている。

── 韓国の36歳の女性の心境とは?

結婚ができず、家を追い出されるような身の上の女性。自分自身がモデルだが、宇宙人が登場したりして笑えるような作品にする予定。

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各国のアニメーション制作における支援状況について 

作品制作の背景には、国や政府の支援状況が大きく影響している。例えばヨーロッパでは国や街・企業が芸術やアニメーション制作に支援・投資することで色々な作品が生まれている。日本は個人でのアニメーション制作は難しい状況にあるが、エンターテイメント(大作)として作られるものに面白い作品が多い。ドイツや日本・韓国など、各国を比較しながら現状や今後の可能性について話し合ってみたい。

―ツジ氏がヨーロッパのテレビ局ARTEで紹介された映像を上映―

── 韓国もヨーロッパ同様、10年ほど前に政府の支援が始まったとのことだが、それ以降アニメーション作家が増えたか?

当時の詳しい状況は分からないが、支援する機関の性格によって作られる作品の志向が変わるとは思う。韓国には主な支援団体として韓国コンテンツ振興院とソウルアニメーションセンターがあり、前者はどちらかというと商業主義的、後者は実験的・作家主義的なものを支援する傾向がある。もちろん内容が良ければ、どちらからも支援を受けることが可能。ただ、支援がなかった時代にも制作活動を行っていた人たちは多く、今でも交流の機会がある。

── 映像で紹介したフランスとドイツのテレビ局ARTE(アルテ)は、実験的なアート映像を専門に紹介しているが、韓国では一般の人たちがそういった作品に触れる機会は多いか?

機会は少ない。ヨーロッパはアニメーションを芸術と考えているようだが、韓国では子どもが見るものという認識。エンターテイメント作品は、日本やアメリカのアニメが主流。テレビ等で韓国の短編が放映される場合には、義務として放送枠が決められ、その範囲内で紹介されている。

── 日本もヨーロッパとは文化に対する意識が異なると思う。韓国では現在、個人で活動するアニメーション作家は増えているか?

[チェ・ユジン氏]現在、インディ・アニフェストに公募されてくる作品数は250程度で、学生の作品が200、一般作品が50程度。毎年増減はあまりないが、アニメーションを教える学校が増加傾向にあり学生の作品が増えている。制作環境が厳しいので、皆どうやって生き残るか悩みながら模索している。テント映画祭のような新しい映画祭を自分たちで企画したり、スーパーの前で展示会を開いたりと新しい動きが広がっている。制作活動を続けている作家たちからは長編に挑戦したいという声も聞かれる。

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韓国インディペンデント・アニメーション協会事務局長のチェ・ユジン氏

[ホン監督]私たちが活動を始めた時「一番大事なのは最後まで続けることだ」と先輩に言われた。経済的な理由でやめていく人も多いので、そういう話が出たのだと思う。

── 話を聞いて、韓国の方が日本以上にアート・アニメーションが盛んなのでは、という印象を受けた。昨年の冬に国際交流基金の依頼で東南アジアの国々を調査したが、現在、東南アジアでは、韓国のポップスや映画・ドラマがとても人気が高い。今後アニメーション分野でも韓国の成長を期待しているし、日本も頑張らなくてはと刺激を受けている。

今回『ロマンはない』を制作し、実際に劇場公開・配給・広報する過程を通して、配給・広報作業が非常に大変なものだと分かった。韓国では特に集客が難しいので、日本でこれほどたくさんの人に見てもらえて嬉しい。インディペンデント作品は、先程のテント映画祭のような、劇場公開以外の方法で紹介の機会を増やすことが大事だと思う。今回、このような機会を与えてくれたシネマコリアや愛知芸術文化センターに感謝している。

観客との質疑応答

── 韓国映画アカデミーでは毎年卒業制作で長編を作っているのか? 学校で作った作品が、どのようなプロセスで劇場公開されたのか?

卒業制作ではなく制作研究課程での制作支援プロジェクトとして選ばれた学生がチームを組んで制作している。大手配給会社のCJエンターテイメントが支援しているので、その系列の劇場で公開が可能となった。

── 一番感心したのは作品の「間合い」。韓国映画はひたすら喋るというイメージがあるが、母親がうつ状態になって縁側で濡れる洗濯物を眺めているシーンなど、台詞のない場面での間の置き方が素晴らしかった。母親を気にする父親が、家を出る際にドアを開けてそっと振り返るシーンもタイミングが絶妙で、長編ならではの演出だと感じた。また動物園でデートをする場面で、もじもじしている二人をキリンが見下しているような表情の描き方も絶妙だった。

実は洗濯物のシーンの演出が一番難しかった。自分が母親ならどのような心情でどこをどのように見つめるか、一つ一つ掘り下げて考えながら何十回も描き直した。ここや二人が初めて結ばれるシーンは最も大事な場面なので、スギョン監督が一枚ずつ水彩画を手描きして丁寧に演出した。実は最後のミキシング段階までは台詞が残っていたが、最終的に台詞がない方が母親の感情を上手く表現できると思い無言にした。苦労した部分を分かってもらえて嬉しい。

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スギョン監督

── 母親は美人という設定だが、ホン・ウンジ監督のお母さんは本当に美人?

美人だと思う。子どもは誰も似なかったが(笑)。



補足:韓国映画アカデミーについて
 国立映画学校「韓国映画アカデミー」は、1984年に設立されて以来、現在に至るまで監督・撮影監督・プロデューサーなど多くの映画人を輩出している。コースは、演出、シナリオ、撮影、プロデューサーの4コース。演出については「(実写)映画」と「アニメ」の2専攻がある。募集人員は毎年30名程度、演出の映画は6名、アニメで6名。現在は、2年の教育期間のうち前半1年が「教育課程」、後半1年が「制作研究課程」となっており、教育課程では2本の短編を撮る。その後、演出、撮影、プロデューサー担当者がチームを結成してプロジェクトを出し、それをコンペにして、制作研究課程への参加者を選抜する。採用されたら一作品あたり5,000万ウォン程度の製作費を受け、この予算で長編を撮る。この制作研究課程で作られたのが『ロマンはない』。韓国最大手の映画会社CJエンターテイメントは、韓国映画アカデミーと提携を結んでおり、制作研究課程の長編作品を自社系列のシネコンで公開している。



Text by 加藤知恵
2011/6/27
花開くコリア・アニメーション2011 名古屋会場『ロマンはない』ゲストトーク 抄録より(シネマコリア)
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