『少女の物語』キム・ジュンギ監督スタジオ訪問記By KIAFA

『少女の物語』キム・ジュンギ監督スタジオ訪問記By KIAFA
(2013.05.16 KIAFA naver caféより)

花コリ2013で上映し、観客投票で3位となった、従軍慰安婦問題を扱った『少女の物語/Herstory』のキム・ジュンギ監督のスタジオをKIAFAスタッフが訪ねました。

インタビューのためにキム・ジュンギ監督の制作空間に行った際、監督は熱心に制作に没頭している最中でした。
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KIAFA:『灯台守 / 등대지기』という作品の題名を聞いただけでも、海を照らす灯台の話だと思いました。でも作品の中の灯台守は村全体を明るく照らすだけでなく、人々の心も明るくするものでしたね。作品がとっても温かいです。作品を構想するきっかけは何だったのでしょうか?

キム・ジュンギ(以下キム):会社をやめる直前に考えてみたんですが、僕が会社に通う時は、日本のアニメーションが好きで過激だったり怪奇なキャラクターを描いていました。しかし、いざ短編アニメーションを作ろうとしたら10分そこそこの長さで、一人で作ることができる、ある意味短編らしい作品は何かと考えたんです。そうするうちにテレビで新村のある路地を体の不自由なおばさんが何年も一人で掃除する姿を映していて。国家の補助金を受けられるのがありがたいからだと話していました。でも、通りを通る人々はこの路地がどうしてきれいなのか知らない。この話を聞いて作品を構想するようになりました。

KIAFA:『灯台守』では主人公を目の見えない人に設定した理由もそこからですか?
キム:初めは“灯台”で話を作ってみようと思いました。ああいう風に灯台を明るくする人のキャラクターがまず最初に出てきて、それから彼が能力がないと差別する人々が出てきたのです。彼らが苦しめる、火を灯す人が盲人なら感情がもっと強調されるだろうと思って選びました。

KIAFA:題名を『灯台守』とした理由は?
キム:『人生 /인생(2003)』もそうだし、『環/ 환』もそうだけど、僕は題名をつけるとき、深く考えないみたいです。『人生』をつけるときも課題が『人生』だったんだけれど、結局最終的に作品の題名が『人生』になりました。

KIAFA:では監督の作品で『ルーム / 룸(2005)』も、部屋の中で全ての話しが展開されるから『ルーム』なのですか?
キム:そうですね。実は“シャム”も考えました。実験体の二人は三つ子のようにくっついているから。でもいろいろ考えた末に『ルーム』に決めました。部屋の中での意志を表現したかったこともあり。『ルーム』は制作期間が長かった分、おしい部分もあります。『ルーム』は僕が作った作品の中で一番コードが違う作品です。ドタバタ喜劇も表現したかったし、商業的なことも言いたかったし。設定自体は良かったです。ある寓話にもありますが、腕にギブスをした人々が食べていくためにはお互いにご飯を食べさせてあげなきゃいけないという。その中には権力者の無限な貪欲もあっていて…、とにかくあまりにも多いことを表現しようと欲を出してはいけないみたいです。『ルーム』の時そう感じました。『人生』がうまくいって、良い反応を受けている時、『ルーム』は50%くらい進んでいました。その当時、海外の映画祭にたくさん招待されたんだけど、映画祭で他の作品を見ると『ルーム』はうまくいかないかもと思いました。だからか最後の部分を完成させるのが大変でした。それ以後多くを学びました。

KIAFA:ドタバタコメディー要素のためにおしかったと言いましたが、私は『ルーム』が、ともすると軽く見える話の中に世の中に対する鋭い洞察と警告があると感じました。
キム:ええ。『ルーム』がなかったら『Herstory/少女の物語/소녀이야기』も作れなかったと思います。

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ルーム/방/The room』(2005/35mm/15:40/2D,3D)


KIAFA:『人生』を『ルーム』より先に作りましたが、どういういきさつで?
キム:『灯台守』が終わって父と喧嘩しました。何年も作品ばかり作っていたので、父は気に食わなくて。特に3Dアニメーションがまだそんなに知られていない時だったからよりそうだったんだと思います。父と喧嘩して、考え出したストーリのようです。『父も僕が生まれて良かったのか?』と思ったり。実際、今思えば、自分はあの年で『人生』をどうやって作ったのか?と思います。勿論今は子どももいて、僕が父親になったからああいう内容を考えられるけど。歌手キム・ガンソクの歌『三十の頃に/서른 즈음에』も50過ぎればもっと近づくと言うじゃないですか。自分があの年であの作品を作ったのが不思議です。

KIAFA:監督が『人生』で賞をもらった時、みんな驚いたって。監督の年が“人生”を語るには若い年だと思って。
キム:苦言もたくさん聞きました。年を取って考える話じゃないですか。『人生』を作って人生を論じようなんて、という話を聞いた時はちょっと辛かったです。去年(2012)に釜山国際映画祭に行った時にも感じたけれど、アニメーションが与える影響力を、人々は思ったより過少意識するようです。アニメーションはかなり大変な作業をしても一カット出るのは一瞬。アニメーションの位相が大きくなってアニメーションだけの権威ある賞があったらいいのにと思います。映画祭に行っても映画監督たちは活発に活動するのに対し、アニメーションの監督たちはそうではないんですよ。本当に大変な作業をしてアニメーションを作るのに、アニメーションだけの市場がはやく構築されたらと思います。

KIAFA:未だにアニメーションをマンガ映画だという認識があるようですね。
キム:アニメーションがマンガ映画だというのは旧時代的な発想です。僕が今作業しながら思うに、学生の時こんなに勉強していたらソウル大へ行っただろう。それくらい熱心に勉強して作ってアニメーション一カットが出きあがるのに、みんなにはその努力がよくわからないみたいで。

KIAFA:『人生』をみると中間で種を植えますが、木に水もあげて。これは何を意味しているのですか?
キム:時世代の人のため。僕たちが上世代から恵みを受けたように主人公もその事をするんですよ。これといった誰のためではなく次世代のために。

KIAFA:主人公が塔を上がり続けますが、塔に設定した理由は?
キム:最初はバベルの塔にしようと思いました。階段をずっと上がる設定だったけれど、それよりは手または足のバランスを崩して落ちる設定がもっと威圧感を与えられると思ったんです。キャラクターや塔はさまざまな文明を交ぜました。アズテック、インカ、マヤ、エジプト文明等の石像や柱にある文様でデザインしたんです。多くの文明と文化が混ざって一般的な人間を表現してみようと思いました。

KIAFA:監督は人類問題や社会問題に関心が高いようですが。
キム:『環』次はきれいな作品を作りたいです。子どもたちをみて、思ったことを表現しようと。子どもたちと一緒に見ることができるアニメーションを作りたいです。

KIAFA:お子さん達が見れば『人生』がたくさん浮かび上がるでしょうね。

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『人生/인생/The Life』(2003/35mm/09:45/3D)

KIAFA:『人生』の結末は思ったより淡々としていましたね。
キム:最初『人生』を作る時、周りで結末を変えたら良いという話もありました。塔に上って来てパッと飛び降りるとか、ヘリコプターが来るのはどうだろうって。僕は、これはとてもアニメーション的なマインドだと思いました。人生というのは元々そうではないでしょう。死ぬことを知っているけれど人は皆、熱心に生きて行きます。もしヘリが来るとか主人公が塔の下に飛び降りれば『人生』ではなかったでしょう。

KIAFA:監督は長編を作るお考えはないですか?
キム:僕は短編作家を続けていくつもりです。短編作家は作品が貯まればそれが経歴になるじゃないですか。やり甲斐がある仕事だと思います。
KIAFA:外国でも短編制作だけをする方々は多いですよ。
キム:ええ。例えば、フレデリック・バック(『木を植えた男』)やアレクサンドル・ペトロフ の『老人と海』のような作品は本当に芸術だと思います。現代美術館で見せるべきだと思います。

KIAFA:そんな時代が私達の国にも来るでしょう。
キム:僕たちの国は『少女の物語』を作っても、その次の作品に対する投資者が現れるということはありません。ただ作られた作品を上映できるようにあくせくしますね。作家を支援してくれる構造自体がないのが残念です。
KIAFA:良い作品だというのは分かるが、投資しようと思わないのが残念ですね。

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『少女の物語/소녀이야기/Herstory』
(2011/11:00/2D,3D)
日本軍の従軍慰安婦としてインドネシアのジャワ島へ連行され、数年間の慰安婦生活を送ったチョン・ソウンさん(1924~2004)。彼女の生前のインタビュー音声をそのまま使用して作られたアニメーションだ。日本人に対抗した罪で投獄される父の身代わりに日本へ働きに出るつもりだった、少女ソウンさんの体験談。

KIAFA:では、話が出たついでに『少女の物語』の話を。
『少女の物語』を見ると、感情の節制がとてもよくできているようです。感情に訴えないで、ありのままだけ見せていますが、そういう演出をしたんですか?
キム:はじめからそういう風にしたかったです。日本人が作ったと言っても信じられるくらいの作品をと思ったんですよ。韓国人の視覚に偏った内容を記したくはなくて。ある人は、朝鮮人が先立って少女を連れて行く内容は抜いた方が良いんじゃないかと言う人もいました。でもそれが事実じゃないですか。そして資料を探している途中で分かった事実ですが、慰安所を管理する人々は朝鮮人達でした。でも、そうだとして日本政府に兔罪符が生ずることではないでしょう。

慰安婦女性の中には日本人たちもいたと言います。でも、その人達は本当にお金を稼ぎに行ったのでした。戦争初期に慰安所が設立した時からあったんですよ。でも需要があって幼い女の子達を連れて行ったのです。日本は人類歴史上してはいけない事をしたことに対して認定をし、この事を解決しなければならないと思います。

無条件的に日本が悪いという意味ではありません。『少女の物語』を作りながら感じたことだけれど、慰安婦のお婆さんたちが皆亡くなれば、日本と我が国は絶対仲直りできる余地が残らなくなります。容赦を求めることができる状況にならないから。僕が『環』を作ることも同じ理由からです。日本の国民に知らせることができれば良いと思います。“靖国神社に参拜するのにどうして君たちが大騒ぎするの?”と言いますが、これはないと思います。無理強いされ連れて行かれた我が国の人々2万7千名が、日本の天皇のために争って死んだ戦争の神さまと仰ぎ敬われています。子孫たちが反対するにも関わらず。意識ある日本の人々でさえ、名簿から除いてくれと言って訴えても全然受けつけてくれないと言います。犠牲になった日本人たちも無惨なのですよ。靖国神社に自分の子どもが3人入っている母親が詩を書いて靖国神社を訴え、叶わず亡くなったお婆さんもいます。日本人も知っていなければならない問題だと思います。

日本と韓国が近づかなければならないと思います。お隣り同士なのに争う理由がないでしょう。でも僕たちが被害者で容赦をしなければならない立場で、容赦をするためには容赦ができるような態度を見せなければならないと思います。それで今も『環』を作るのです。

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制作中の『環/환』

KIAFA:題名を『少女の物語』とつけたことも慰安婦のおばあさんを一般化して表現したのですか?
キム:そうです。おばあさんも元々は少女だったし。それに適切な題名が『少女の物語』しかないと思いました。僕たちがよく話すじゃないですか。歴史はhistoryだけれど、なぜher storyはないのか。『Herstory』を先に考え、『少女の物語』が出てきました。

KIAFA:でも海外では『少女の物語』が多くの関心を受けています。いろいろな映画祭でも上映されて。
キム:むしろ韓国では政治的な問題すぎると言われて、うまくできなかったんですよ。でも慰安婦話が政治的な素材で判断されることは我が国しかないようです。そう思えば、‘アンネの日記’も政治的になるでしょう。韓国人たちがもっと出て、このような問題点を知らせなければならないのに、むしろ政治的という理由で排除されるというのは本当に残念なことです。

去年、アヌシー国際アニメーション映画祭で『少女の物語』を上映しました。上映が終わると皆たくさん泣いてたんです。それを見ると、これが韓国人たちだけが持つ強みになると思いました。韓国コンテンツの強みにもなって。この恨み立ちこめた感情は我が国だけが表現することができると思います。

KIAFA:意外ですよね。外国人は私たちと情緒を共有しなくて違うと思いました。
キム:南アフリカ共和国と係わるドキュメンタリーを見ると、黒人たちが経験した無惨な話を聞くと僕たちも悲しいでしょう。同じ原理だと思います。むしろ直接事件を経験した人が淡々と話します。他の文化圏の社会の人々が『少女の物語』を見て、どうしてまだこの問題を解決することができないのだろうか?と疑問視していただけたらと思います。

KIAFA:今、制作中の『環』について話してください。
キム:『少女の物語』を作っている最中、靖国神社と係わるドキュメンタリーを見ました。まさにこの内容をアニメーションで作れば良さそうだと思いました。当時『少女の物語』の半分の制作が終わっていました。
靖国神社に安置されながら魂が果して幸せなのかと思いました。その魂と残された家族に関する話です。場面が繰り返されるようにして戦争の螺旋で繰り返して回る姿を表現しました。それで作品の題名が『環』です。英語では『cycle』で。

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制作中の『環』のストーリーボード

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合成模型

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合成モデリング


KIAFA:『環』以後の作品はきれいに作りたいとおっしゃってましたが、もっと詳しく作品について話してもらえますか?
キム:幼い三人の兄と妹が具合の悪い母親のために薬を買いに行って来る内容です。去年思いついて。

KIAFA:本当に美しいアニメーションになりそうですね。三兄妹というと監督のお子さんたちからインスピレーションを受けたようですね。
キム:一番上と三番目が息子で、二番目が娘なんですが、本当にいい子で遊んでいます。

KIAFA:年の差があまりないけれどケンカしないんですね。
キム:あまりケンカしないです。子どもが3人だから育てるのが大変そうだとよく言われますが、3人でよく遊んでいるので大丈夫です。大変じゃない。そんな生活ぶりが作品に反映されているようです。

KIAFA:作品を作るのに、家族が力になっているんですね。

KIAFA:好きな作品はありますか?
キム:ジャンルを問わず、皆好きです。先日『プロメテウス/ Prometheus』(2012米国)も見たし、映画『レ・ミゼラブル』も本当に良かったし、『Everybody's Fine』(2009米国)も見たけれど、感銘深かったです。

KIAFA:これは当事務局が入手した情報ですが、監督は運動がお好きだと聞きました。
キム:運動選手のように運動をするのではなくて、制作していると、気づくといつも座っているんですよ。それだとエネルギー消費もなくて辛いんです。それで筋トレは常にします。運動をすれば情熱もでて性格も変わるようです。いくら忙しくても1週間に3~4回は必ず運動しています。

KIAFA:アニメーションをしていると体を壊しやすいといいますね。
キム:壊れる理由はないのに向上する余地がないようです。身体も使わないとさびつくんですよ。

KIAFA:お酒を飲まないですよね。
キム:お酒、タバコはやりません。僕の生活は運動と制作が全てですよ。それでも食べることは好きでよく食べて。楽しく食べながら運動をしていたら維持できるようです。

KIAFA:ではスタジオ訪問記の恒例、最後のコーナーだけ残りましたね。「~とは?」の質問をし続けるのでテンポよく答えてください。

KIAFA:監督にとって運動とは?
キム:作品と同級。

KIAFA:監督にとって家族とは?
キム:作品より優先、僕自身より優先です。

KIAFA:立派なお父さんですね。父親に関連した作品を作るのはどうですか?
キム:『人生』でやりました。あとマイケル・デュドク ドゥ・ヴィット(Michael Dudok De Wit)の『岸辺のふたり/Father and Daughter』がとっても好きで。

キム・ジュンギ監督、インタビューにテキパキと応えてくださりありがとうございました。
これからも良い作品に期待しています。




KimJun_ki02.jpg キム・ジュンギ KIM Jun-ki 
 2011『少女の物語/소녀이야기/Herstory』
  ・Annecy 2012
  ・SICAF 2012
  ・広島国際アニメーションフェスティバル 2012
  ・札幌国際短編映画祭
  ・SIGGRAPH ASIA 2012
  他多数の映画祭で上映

 2006『ルーム/룸/The Room』
  ・Animamundi(Brazil)コンペ上映

 2003『人生/인생/The Life』
 2003『Nest』
 2001『灯台守/등대지기』

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